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「新国立競技場は日本の木材ブランディングにつながる」隈研吾氏インタビュー

「木」に関してデザイン性が優れた製品・取り組みなどを表彰する「ウッドデザイン賞2016」 受賞作251点が決定した。今回、第2回となる同賞は、応募総数451点から、書類審査、審査委員会による審査を経て表彰された。今後受賞作の中から最終審査を行い、最優秀賞(農林水産大臣賞)などを選出。12月8日東京ビッグサイトにて表彰式が行われる。

 最終審査に先立ち、第1回目より審査委員を務める、建築家の隈研吾氏に木をとりまく環境、建築に木を取り入れる意義について話を伺った。

人と木は似ている


 ―建築に木を取り入れること、木に対する個人的な想いをお聞かせいただけますでしょうか。
 木造の家で生まれ育ち、その家が持っていた質感や匂いが自分の中に染みついています。あの質感、匂いが戻ってくれば日本はもっと住みやすい国になるんじゃないかというのがベースにあります。

 ―木材をつかうことの難しさ、おもしろさを教えてください。
 木材は生き物なので、大事に育て使うとコンクリートや鉄にはない温かな経験を人間に与えてくれます。大事に育てた想いを返してくれるという見返りがある。そういう建築素材は他にはないし、それがやりがいにもなります。

 ―2020年の東京オリンピックではさまざまな国の方が来ます。設計された新国立競技場を通じて世界にどういったことを伝えていきたいですか。
 こんなに競技場にこれだけ木が使われることはないので、今までのオリンピックとはまったく質の違った大きなものになると思っています。日本の木を使う文化がオリンピックをきっかけに世界に伝搬していって、後から振り返った時に「2020年の東京オリンピックをきっかけにいろんなことが変わったな」となったら最高ですね。

 ―まだ木が使われておらず、これから木を取り入れられそうなジャンルはありますか。
 大きな建物に木材を使う例がまだ少ないこと。コンクリートで作るという常識に根っから囚われてしまっている。大きな建物に木を入れるだけで、全く雰囲気の違う建物ができるでしょう。

 ―木を使うことで、そこに住む方にどんな価値を与えたいですか。
 自分の空間が自分の一部になるような感覚を、木は与えることができる。空間が自分を癒してくれる。そういう関係性をこれから建築は作らなければいけないと思っています。ただ容積率を満たす、賃料が安いなどを超えた価値、今までの20世紀的な価値観を超えたものを建築で提供していきたいです。
 
 人間が木に惹かれるのは、お互い似ているからだと思っています。持っている質感、体温が人間に似ているから、木に囲まれていると安心するのでしょう。

木を介してつながる


 ―木は植林し何十年もかけて育てて出荷する、というサイクルが必要です。生産者の方々にとって、出荷した木がどこに使われているのかわかる、建物とのつながりが見えるということは次につなげていくためにも非常に大事なのではないかと思います。

 木はどういう場所で育ち、どういう人の手を通して供給されたかが全部トレースでき、それが木の個性になるというまれに見る建築材料です。コンクリートや鉄では場所との一体感というようなものは得られない。その場所や人とのつながりが木を通して日本全国に広がっていくと、20世紀にはなかったような新しい絆が生まれ、地域の再生にとっても非常に役に立つと思います。

 今回の新国立競技場でもいろんな縁が生まれそうなんです。建築というのはそういった縁結びの役割も果たせるのだという新たな発見がありました。

(隈氏が多く取り入れる、日本で一般的な105mm角材を使用したディスプレイ)


     (あぐらのかける木のスタジアムチェア)

 ―一方で、日本では木材産業に従事する若者が減っています。
 木のことが好きな若者は逆に増えていると思っています。例えば古い木造の家を改築したカフェ飲食店なんかが増えている。コンクリートに囲まれたところで生活してきたことから、逆に木に魅力を感じていることは間違いないです。世界中でこういう現象が起きていて、若い人ほどかっこいいと思っている。木の空間に惹かれ、懐かしさを感じる。本当に懐かしいかは分からないんですが(笑)

 でも彼らはそれをどう木の復興につなげていくかの回路が見えない。自分の仕事につなげ、社会システムを変えていくのかがわからない。それは当然といえば当然。新しい木の時代はまだ始まったばかりなので、どうやって木を社会システムの中に取り戻すかはまだ手探りの状態なわけです。

 ―これから実践につなげていこうと計画していることはありますか。
 そういったことを計画している人がたくさんいて、僕はなるべくサポートをしています。例えば、リゾートをつくる計画でも、「何部屋のどんなホテル」とかではなく、「木を使って作りたい」と素材から注文してくる人がいます。

 インドネシアのある島では、そこに生えている木を使って地元の人たちのための木の家を作るという計画があって。現在はブリキの家に住む人がほとんどですが、もう一度木の家に、しかも安く住まわせてあげたいというんです。そういう「木のマニア」っぽい人が世界中に増えています。

 工業化に疲れた人間が、木に戻るのはすごく自然だと思っていて、きっかけがあれば経済性のある実践に結び付いていくと思いますね。

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
隈氏は丹下健三氏が設計した国立代々木競技場を子供の頃に見て、建築家になろうと志したそうです。新国立競技場以外にも、木を印象的に使いながら心地よい空間を実現している隈氏。そこに込められた木への想いを知ることで、より新国立競技場の完成が楽しみになりました。

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