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【動画あり】ジャパンディスプレイ、ソニーの本気!今度こそ3Dを“ブーム”で終わらせない

【動画あり】ジャパンディスプレイ、ソニーの本気!今度こそ3Dを“ブーム”で終わらせない

ジャパンディスプレイの「ライトフィールドディスプレイ(LFディスプレイ)」

あえて3Dという言葉を使わないジャパンディスプレイ

ジャパンディスプレイ(JDI)はあえて3D(3次元)という言葉を使わなかった。9月下旬に発売した、裸眼で3D映像を見られるディスプレーの名称は「ライトフィールドディスプレイ(LFディスプレイ)」。10年前に起こった3Dブームの悪いイメージを嫌ったからだ。しかし、コンテンツ作成などの技術革新により、現在3Dディスプレーへの関心が再び高まりつつある。ブームで終わらない3D市場の本格形成に挑む。

1950年代、1980年代に次ぐ第3次3Dブームは2009年に公開された3D映画「アバター」のメガヒットがきっかけであり、ユーザー不在の狂騒曲の始まりだった。JDI・R&D本部の林宗治研究主査は「ハードウエア優先でブームをつくろうとして失敗した」と当時を振り返る。アバターのブルーレイディスク(BD)版などの発売に合わせて、2010年にテレビメーカー各社が専用メガネ付きの3Dテレビを相次ぎ投入した。家電量販店での値下げ競争で疲弊していた各社にとって、消費者の目先を変える新型テレビとして3Dに飛びついた。

ただ、当初から3D映像視聴に際して子どもの目への影響を懸念する専門家の声があった。加えて、3Dテレビを買っても優良な3Dコンテンツが不足していたため、やがてどこの家庭でも従来通りの2Dテレビに成り下がった。「アバター以外の3D映画は技術を分かっていない人たちが3D化したので強い違和感を覚える作品ばかりだ」(林研究主査)とハード主導の悲劇となった。消費者の頭の片隅に3Dの嫌な記憶だけを残した。ブームの最後の花火だったのが東芝の2010年末に発売した専用メガネ不要の3Dテレビだった。東芝のディスプレー事業を源流の一つとするJDIが10年後に再び、裸眼3Dディスプレーを発売したのは不思議な巡り合わせだ。

JDIが国内企業・団体向けにオンライン販売を始めた5.5型LFディスプレイはあくまで開発キットの位置づけだ。専用コンテンツを作成するためのソフトウエア開発キットも同梱する。新事業開発本部の堀洋平主査は「キットを開発者に使ってもらい、LFを活用した市場や用途をいっしょにつくっていきたい」とメーカーの都合を押しつけず開発者の創造力に期待する。ここに3Dブームの反省が生かされている。現時点で限定販売40台のうち半分の引き合いがあり、「大学や学校関係、企業の研究所からの問い合わせが多くて意外だった」(堀主査)と想定外の反応を喜ぶ。

現実の物体はさまざまな方向へ反射光を放っており、人間は光線を両目でとらえることで立体感を得る仕組み。物体をディスプレーに置き換えて、その原理を再現したのがLFディスプレイだ。今回の製品は横軸69方向の光線を放つ仕様で、「目の前に物体があれば、こういう見え方をするだろうという光を出すディスプレーだ」と林研究主査は語る。ディスプレーに対して左から見れば物体の左側、右から見ればその逆側を表示する。69方向の画像が必要だが、実際のカメラで撮影するわけではなく、開発者などがつくった3DのCGモデルを仮想空間で撮影するためコンテンツ作成の手間は大幅に省ける。

LFディスプレイの視域角度は100度で、見る位置に制約がなく多人数視聴も可能なのが特徴だ。一方、従来型の製品は、適視距離(30センチ―50センチメートル)を設定した上で左右の目に入る画像をそれぞれ表示する仕組みだ。そのため視聴者が前後左右に動くと、画像が二重に見えたり、本来と逆の目に入ったりする事象が起きて、十分な立体感を得られないケースが少なくない。LFディスプレイはディスプレーの前に遮光のバリアマスクを設置し、各光線の方向を制御している。林研究主査は「広い範囲で見える点を重視して、バリア方式を採用した。ただ、バリア方式は構造的に暗くなりがちだが、ディスプレーメーカーだからこそバックライトなどの部品調整で明るくできた」と胸を張る。

ソニーも31日に「空間再現ディスプレイ」発売

ソニーの3DCG映像を裸眼で見られる「空間再現ディスプレイ」

2020年は真の意味で「3D元年」と呼ばれる年になるかもしれない。この10年間の3Dディスプレーは医療や車載など一部用途に限られていた。JDIだけでなく、ソニーも裸眼で3D映像を楽しめる「空間再現ディスプレイ」を10月31日に発売する。こちらは搭載した画像センサーで検知した視聴者の目の位置に応じて映像を生成することで、専用メガネなしで立体感のある映像を表示する仕組みだ。JDIと技術方式は異なるが、3Dという言葉を前面に出していない点は共通していて興味深い。お互い切磋琢磨しながら、「3Dブーム」ではなく「3D市場」の立ち上げを目指す。(編集委員・鈴木岳志)

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