政府が中国製ドローンを事実上排除、国産ドローンは躍進できるか

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電力設備や通信網の点検などでドローンの活用が広がる。重要インフラでは国家安全保障がからむ(イメージ)

政府は、2021年度以降に購入する飛行ロボット(ドローン)で、中国製ドローンを事実上、排除する方針を決めた。国産メーカーにとっては、市場拡大のまたとない好機だ。とはいえ国産品は、現時点では中国製や欧米製と比べ、価格や性能の面で開きもある。国家安全保障や、国内産業の育成を図る上でも、官民一体の腰を据えた開発支援体制が求められる。(編集委員・嶋田歩)

市場拡大の好機 官民一体で開発サポート

中国製ドローンを排除する動きは、日本だけではない。米国をはじめ欧州諸国も、政府機関で使うドローンの調達禁止や制限措置に動いている。

ドローンはIoT(モノのインターネット)で外部通信とつながり、人工知能(AI)や高精細センサーカメラで撮影した動画像データを、地図情報とともにリアルタイムで外部へ送信できる。サウジアラビアの石油施設がドローンによる攻撃で一時使用不能になった19年の事件などを教訓に、世界各国で中国製ドローンの脅威と自国の安全保障を結びつける動きは急速に進んでいる。

ドローンの世界市場では、中国企業が圧倒的な存在感を見せている。商用小型ドローンでは、世界シェアの7割強を占めると言われる。中国は17年に制定した「国家情報法」で、いかなる中国の組織も情報提供で政府・共産党に協力しなければならないと義務付けた。

原子力発電所や国際空港の管制塔、軍事施設のレーダーサイトなどの正確な地図情報や画像情報が、筒抜けになるリスクが高まっている。

防衛省は20年版の防衛白書で、中国電子科技集団公司がAIを搭載したドローン200機によるスウォーム(群れ)飛行を18年に成功させたと指摘した。仮に協調飛行制御された数百機のドローンに攻撃された場合、ダメージは深刻。電力や鉄道などでは、社会インフラがまひすることは免れないだろう。

こうした事態を踏まえ、政府は9月14日に「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針」を示した。重要インフラの点検業務や詳細な3次元(3D)地図作成の測量業務を行うドローンなどについて、内閣官房に事前に計画書を提出し、審査を受けることを義務付けた。外部に業務委託したケースも対象とする。現在、政府が保有するドローンも早期にセキュリティー性の高い機種に置き換えを進める方針だ。

ブルーイノベーションが運用するプラント内部点検ドローン

政府機関が保有するドローンは海上保安庁や防衛省、総務省、林野庁、警視庁など合計で1000機近くとみられる。国産メーカーにとっては有望な新市場が生まれることになる。

性能・価格に問題点 量産効果でコスト引き下げ

国内で自前のドローンを開発する企業は多い。ドローンの運用技術に強みを持つ企業もある。政府は22年度にドローンの無人飛行の要件を緩和する計画で、インフラ点検や測量、警備、物流、農林水産業などで新市場創出が期待されている。

国産ドローンのテラ・ラボは翼長8mの機体で22年度に実証飛行を予定

多くの国産ドローンの課題は、価格と性能に集約される。価格面では機種にもよるが、中国製が平均で2―3割安いとされる。日本は市場がまだ成熟しておらず、物流現場などで実証試験段階のものが多い。機体は“一品もの”となり、価格は上昇する。

対して中国勢は量産を前提に汎用部品を大量に使用してコストを引き下げ、生産もラインで行うとされる。中国勢と価格で対抗するには、まず新市場を確立し、量産効果でコストを引き下げることが必要になる。

性能面では国産ドローンは駆動源にリチウムイオン電池を採用しているため、30分程度しか飛行できないものがほとんどだ。

水田の農薬散布や建設現場のピンポイントの測量ならばそれでも十分だが、国境警備や山間部の送電線、海岸線など広いエリアをカバーするには航続距離や滞空時間が物足りない。

欧米製ドローンの輸入販売を手がける企業の担当者は「海外のドローンは軍事用から民間用に転用されている機種が多い」と指摘する。別の企業の担当者も「中国製ドローンの規制は日本メーカーに追い風。だが、警備や不審船探索などでは欧米製に一日の長がある」と話す。

15日から海上保安庁が海難事故の探索や不審船監視用に実証実験を始めた米ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ製の「シーガーディアン」は、翼長24メートル、全長12メートルで丸1日以上飛行できる。日本はテラ・ラボ(愛知県春日井市)が、翼長8メートルで航続10時間の機体を22年度に実証実験する段階だ。海上や横風の激しい場所では国産ドローンは飛行安定性の面でおぼつかないものが多い。

政府が中国製ドローンを規制することで、今後は国内の電力・通信会社、鉄鋼・化学プラント、公共建物を手がけるゼネコンにも同様の動きが広がることが予想される。だが、価格や性能の課題を解消できなければ、欧米勢だけが市場を広げる結果になりかねない。

物流・点検・測量 用途別に専用機

「ドローンはもはや汎用品ではなく、市場用途に合わせて専用機を開発する時代に入った」。ブルーイノベーション(東京都文京区)の熊田貴之社長や、自律制御システム研究所の鷲谷聡之社長などはこう指摘する。同じドローンでも離島に荷物を運ぶものやプラントの内部点検、測量とそれぞれ要求性能が異なり、専門性が求められる。個々の市場で利用者の要望を洗い出し、それに沿った機種を開発し、まとめてつくる。利活用の促進や環境整備、技術開発など官民一体の支援体制が必要だ。

日刊工業新聞2020年10月16日

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