半導体、電子部品、家電...米中摩擦やコロナの影響は10月以降どうなる?
米中摩擦、先行き注視
主要業界の2020年度下期は、半導体で米中貿易摩擦を受けた米国による中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)向け制裁措置の影響が尾を引きそうだ。新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、“巣ごもり需要”で調理家電などが好調だった家電・AV機器、テレワーク拡大などニューノーマル(新常態)対応を進めた情報サービスなどが、下期もその勢いを確保できるかが焦点だ。
半導体 ファーウェイ追加規制響く
米中摩擦の激化が半導体の事業活動を阻害している。米商務省によるファーウェイへの追加規制が9月15日に発効し、半導体各社が大口顧客との取引停止を余儀なくされた。
相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサー世界最大手のソニーはファーウェイ向けの売り上げが年間数千億円あるとみられる。スマートフォン新製品が多く投入される年末は最大の需要期。コロナ禍も重なり影響は小さくないため、米商務省にファーウェイとの取引再開許可を申請した。
同じく許可申請したNAND型フラッシュメモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)はソニーと状況が少し異なる。
11月に発売されるソニーと米マイクロソフトの新型家庭用ゲーム機がSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)をそれぞれ搭載する。米調査会社によると民生機器用SSDの20年の需要見通しが19年5月予想比で9割増、21年も同6割増とゲーム特需の追い風が吹く。
電子部品 5G関連、業績けん引
電子部品は上期に続き、通信関連向けが業績をけん引しそうだ。主力の自動車向けは自動車販売台数の減少に加え、新型コロナ感染拡大による生産調整の影響が続いている。それを補っているのが、基地局やサーバ、パソコン、タブレット端末など向け。その背景には第5世代通信(5G)の普及やテレワークの定着などがある。
特に二次電池や積層セラミックコンデンサー(MLCC)、高周波部品、アクチュエーターなどの販売が増加している。この動きはしばらく続くとみられる。
自動車販売は世界でみるとコロナ禍の収束が見込めず不透明な部分はあるものの、一部の地域では生産が復調している。中でも中国は自動車販売が回復してきており、電子部品需要の早期回復が見込まれる。また、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった車業界の潮流は変わらない。電子部品各社は車向けの開発を引き続き強化している。
家電・AV機器 薄型TVに買い替え需要
日本電機工業会(JEMA)によると、4―8月の白物家電の国内出荷額は前年同期比1・3%増の1兆1559億円。コロナ禍で巣ごもり消費の需要を捉えた調理家電が引き続き好調。エアコンや冷蔵庫も猛暑で堅調に推移した。
しかし、外出機会が増えたことで、下期は巣ごもり需要が落ちつきそうだ。JEMAが3月に発表した、新型コロナ影響を見込まない20年度の国内出荷額は前年度比2%減の2兆4079億円。この予想を大きく上回るとは考えにくい状況だ。
薄型テレビの出荷は下期も堅調に推移する見方が強い。
電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、4―8月の出荷台数は前年同期比約14%増の約221万台。
業界関係者は「当初から買い替え需要が見込まれていた年度。下期で突然失速することは考えにくい」と見通す。不安材料は消費者の財布事情。コロナ禍での業績が反映される冬のボーナス次第で、年末商戦の盛り上がり方が変わる。
OA機器 複写機・複合機、低迷
OA機器はコロナ禍による商談機会の減少や在宅勤務の増加により、厳しい状況が続きそうだ。ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)がまとめた4―6月期の複写機・複合機の世界出荷額は前年同期比33・8%減の1380億円だった。
7月時点でキヤノンの田中稔三副社長最高財務責任者(CFO)は「最悪期は脱して商談や印刷需要は戻ってきている」とし、外出自粛の緩和などに伴い需要は既に回復傾向にあるとみていた。一方でコロナ禍を受けたデジタル化の進展などの影響で、オフィスでの印刷量は完全には回復しないとの見方も大勢だ。
リコーの山下良則社長は「20年度中は、グローバルでの印刷量が従来の90%までしか戻らない」と推測する。主力のオフィス向け複写機・複合機の低迷が続く中、複合機や業務ソフトウエアを組み合わせたオフィスサービスなど新事業の展開で需要を取り込めるかが焦点となる。
携帯通信 ドコモ、値下げ先導も
携帯通信はNTTがNTTドコモの完全子会社化を決めたことで風雲急を告げた。菅義偉氏の首相就任に伴って通信料金引き下げ圧力の高まりは必至と考えられてきたが、ドコモが値下げを先導する可能性もある。
NTTの澤田純社長は「ドコモは(完全子会社化で経営体力が)強くなり、値下げの余力が出る」とする。「ソフトバンクとKDDIは競争上、負けるかもしれない。そこで競争が活性化して、料金が下がることが必要ではないか」とも述べている。
ドコモは12月1日に社長交代を控えており、その前後で新料金プランの発表などがあっても驚きはない。
KDDIは既に高橋誠社長が「(政府の)要請を真摯(しんし)に受け止め、対応方針を検討する」と表明した。ソフトバンクも同様の見解を示しており、業界全体が消耗戦に突入する公算が大きい。
各社は業績を底上げする意味でも、5Gの端末やサービスの普及とともに、電子商取引や金融といった非通信分野の強化が求められそうだ。
情報サービス コロナ対応で回復
情報サービスの下期は不透明感が漂うものの、各社徐々に回復することを前提に通期見通しを計画している。日本ユニシスは「コロナ特需による上振れも、投資縮小による下振れも考えられる」(平岡昭良社長)とする。
NECも「コロナ禍の影響は想定内」(森田隆之副社長)との見方だ。
コロナ禍の影響は費用節減やニューノーマル対応で補うのが当面の戦略だ。富士通は「テレワークなど新規案件の獲得」(時田隆仁社長)に力を注ぐ。日立システムズは「自治体のIT投資拡大」(柴原節男社長)を予想。上期の減少をカバーする考えだ。
業種別では、流通業向けが厳しいものの、通信・金融業向けはまだら模様。下期に向けては製造・流通・保険業界などのIT投資の回復をうかがう展開だ。
海外のロックダウン(都市封鎖)で影響を受けたNTTデータは「21年3月期は減収営業減益を予想」(本間洋社長)。早期の事業正常化に期待する。