成長戦略は「ユーザーとのデータ共有」、百年企業の工作機械メーカーが挑む技術革新

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ショールーム内の「J-BOX」では恒温環境下で微細加工を実演。「その繊細さと美しさはジュエリーに通じるものがある」ことから命名

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術を自社の業務効率化にとどまらず、新たな収益源としていかに活用するかー。いま、企業の多くが直面する課題へのひとつの解といえるビジネスモデルがみられることも今回の「グローバルニッチトップ企業100選」の特徴だ。工作機械メーカーの碌々産業はこれを体現する1社である。

アスリート支える主治医の如く

国内外、さまざまな産業の生産現場を支える同社の微細加工機。その設置環境や稼働状況はセンサーを通じて常時監視が可能だ。1台あたりに搭載されるセンサーは最大36点。加工室内の温度やモーターの出力状態といった、あらゆる機体情報を収集、蓄積しわずかの変化や異常の兆しも見逃さない。センサーから得られる機体情報はインターネット上に構築された同社独自のプラットフォームを通じてユーザーおよび同社の間で共有されるクラウドサービスとして展開中だ。

「体調管理やメンテナンスを欠かさないアスリート同様に、微細加工機も常にベストなコンディションを保つには主治医が必要です」。「AIマシンドクター」と称する、このサービスに込めた思いを海藤満社長はこう語る。

海藤満社長

開発は2018年。背景にあるのは、部品の小型化に伴って金型加工における高密度化、微細化が加速する実情だ。スマートフォン関連部品など加工精度1ミクロン(1000分の1ミリ)を切るような極めて微細な加工が求められる分野では、作業環境のわずかの温度変化さえ精度に影響を及ぼすようになる。かつては「加工精度の問題は機械が原因」との認識が一般的だったが、もはや補正機能の完全自動化やオペレーターの経験や勘に基づく補正では対応困難な技術領域に突入した。「自社だけでは解決できない問題だと、ある時点から割り切ってしまいました」(海藤社長)。

微細加工機でニッチトップ目指す

明治時代の創業で日本の殖産興業を担い、国産初の立型マシニングセンターを開発するなど経済発展を支えてきた同社だが、近年は熾烈な価格競争に巻き込まれ1990年代後半には微細加工機の製造に事業を特化。この分野でニッチトップを極める戦略を鮮明にした。そして、さらなる超高精度、高品位加工ニーズに応え続ける成長戦略として打ち出したのがユーザーと一体となって加工支援するビジネスモデルである。常時監視を可能にするIoTや異常予知や予防保全につながるAI解析といった技術革新は実現の原動力となった。

ユーザーにとっては、自社の加工機が世界のどこにあってもリアルタイムで遠隔監視が可能になることで生産の最適化やメンテナンスの効率化、装置の異常による生産機会の損失を回避できる効果が見込める。もとより碌々産業にとっては、装置納入後も顧客との強固な関係を維持できることは言うまでもない。現時点では、同社との関係が深いユーザー企業を中心に運用実績を重ねている。

これからの製造業の姿を発信する静岡工場(静岡県焼津市)

次世代人材の育成も

デジタル技術を駆使した加工支援は、これからのものづくりを担う人材像にも変化を及ぼしている。

「かつて、機械を自在に操りものづくりに携わる人は『職人』と呼ばれてきましたが、これからは求められる資質が異なります。経験や勘といった暗黙知を数値化し、さらにセンサーを通じて蓄積されるビッグデータを分析して実際の加工技術に落とし込む能力が問われてくる」(海藤社長)。ある意味、工芸品にも通じる繊細な感性を育み、創造性あふれるものづくりを実践する加工技術者を、同社では尊敬の念を込めて「エキスパート・マシニングアーティスト」の称号でたたえる普及活動を展開している。これまでに70人が認定されている。こうした次世代の人材育成に向けた取り組みを工作機械業界全体の活動に発展させたいと考えている。

社名の「碌々(ろくろく)」は中国、史記の一節に由来。「個の力が結集し、刺激し合うことで大きな力となり得る」の意がある。日本の強い産業基盤を支える、個々の生産現場が最新技術を通じて「つながる」ことでデータは蓄積され、新たな価値を生み出していくー。百年企業に受け継がれてきた理念はIoT時代に通じるものがある。

キーワード
IoT AI デジタル技術

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