「できません」と断る前に! SDGsで長続きする会社を実現するには?

雑誌『工場管理』連載 町工場でSDGsはじめました 最終回

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 最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。連載10回目、最終回を迎える。

主な登場人物
萬代総務部長:古町工場長の指示でSDGs担当者に。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。59歳。
燕さん:経理部。工場で最もSDGsに精通する25歳。
妙高生産部係長:生産部の若きリーダー。30歳。

「SDGsに取り組む工場」として評判になった夕陽丘製作所の元にロボット製作の依頼が舞い込んだ。萬代総務部長、妙高係長、古町工場長はロボット開発の実現に向けて議論する。

 萬代「粟島農園さんから枝豆収穫ロボットをつくってほしいと依頼されました。作業者の負担を減らしたいそうです。ただし、自走しなくていいから操作性重視とのことです」
 妙高「確かに炎天下での収穫は大変ですね。開発できたら本業でのSDGsの取組みになります」
 古町「けど、うちはロボットなんてつくったことないぞ。開発には費用もかかる」
 妙高「簡易なロボットなら工場の自動化装置を応用できるんじゃないですか」
 萬代「代金は支払うそうです。ただし、軽トラ1台程度の価格に収めたいとのことです」
 妙高「それならクラウドファンディングはどうでしょう。ネットで社会貢献の思いを発信し、共感した人から資金を集める手法です」
 古町「もう少し説明してくれないか」
 妙高「枝豆収穫ロボットの企画を公開したら、他にも購入したい農家さんが現れて開発資金を出してくれると思います。目標額に到達したら製作し、支援してくれた農家さんにも購入してもらうんです」
 古町「なるほど、売れる台数が確約されるから開発費を確実に回収でき、赤字にならない。量産によるコストダウンもできる」
 妙高「その通りです。農家さんの課題解決に貢献できます」

夕陽丘製作所はクラウドファンディングで資金を獲得し、枝豆収穫ロボットを開発した。SDGsをきっかけに新しい事業に進出できた。

<解説 他社、行政、住民との連携を>

「御社で、こんなことできませんか?」と問合せを受けた経験はありませんか。困りごとを解決してほしいという相談なら、それは市場ニーズです。困りごとを解決できる商品やサービスを開発できれば、新しいビジネスになります。

SDGsの理念が示された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書に「民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める」と書かれています。国連が企業に課題解決を要請した一文です。

課題といわれても漠然としており、地球規模の大きな課題を想像するかもしれません。一方、取引先や地域住民の困りごとも課題です。身近な課題の解決に貢献できたら感謝され、評価が高まります。信頼されて人材も集まり、長続きする会社になります。企業がSDGsに取り組む目的は、長続きする会社になることです。ビジネスで課題を解決できれば収益になり、長続きする会社になれるはずです。

今回、クラウドファンディングを紹介しました。共感した人から資金を集める手法はSDGsと親和性が高いです。クラウドファンディング運営サイトがいくつかあるのでネット検索してみてください。地域産業や災害被災地の支援などで資金募集が呼びかけられています。SDGsの達成には資金を集める革新的な手法が必要とされており、クラウドファンディングのような資金調達の活用も検討してみてください。

図 SDGsから企業へのメッセージ

他に大切なのは、パートナーシップです。今まで接点がなかった企業や行政、市民団体との交流で新たな課題に気づけます。また、解決のアイデアも生まれやすいのではないでしょうか。

横浜市には、企業や住民が地域課題を解決する「リビングラボ」という活動があります。空き家の管理に困っていた住民がリビングラボに相談を持ち込み、工務店の太陽住建が1階を地域の集会所、2階をオフィスに改修した事例があります。入居企業からの家賃で集会所を運営でき、空き家問題を解決しました。

SDGsでも「マルチステークホルダー」という表現で、立場の違う人や団体との連携を呼びかけています。困りごとの相談を受けて「できません」と断る前に、今まで接点のなかった企業や市民団体などに相談してみてはどうでしょうか。1社では限界があっても連携によって解決策が見つかり、新ビジネスの可能性も高まります。

ポイント
●困りごとの相談は市場ニーズ。解決策を検討してみよう
●クラウドファンディングのような新しい資金調達手段も選択肢に入れる
●接点がなかった企業、行政、市民団体と交流してみよう。気づきや発見が期待できる

松木 喬(まつき たかし)
 日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGsアクション<ターゲット実践>インプットからアウトプットまで』『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(いずれも日刊工業新聞社)。新潟県出身。


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工場管理 2020年10月号  Vol.66 No.12
 【特集】コロナ時代のモノづくりはどう変わるのか ~現場強靭化へのシナリオ~
 新型コロナウイルスの感染拡大は、依然として製造業全体に甚大な影響を及ぼしている。ウィズコロナ、アフターコロナとも表現される“コロナ時代”の中、生産現場ではさまざまな変化が起こり始めている。こうした変化に柔軟かつ俊敏に対応できる企業こそが、コロナ時代のさまざまな逆境を乗り越えるアドバンテージを得る。
 特集では、新型コロナが製造業にどのような影響を与えてきたかを概観するとともに、それによって生産現場はどのような変化にさらされるのか、さらにその変化の波を捉え、スピード感を持って適応するために経営戦略、生産現場の仕組み、従業員の意識などをどのように変えて進んでいくべきかを提言。コロナ時代を生き抜くヒントを示す。

雑誌名:工場管理 2020年10月号
 判型:B5判
 税込み価格:1,540円

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

最近帰省したら、廃業したコンビニがあちこちにありました。人手不足で工事が滞っている建物も目に付きました。「コンビニを増やす」「建物を新築する」といった普通のことができなくなっています。「常識が通用しなくなった」のかもしれません。ビジネスも前例通りにはいきません。地域の困り事を「自社とは関係ない」と思わずに、今までと違うパートナーと解決策を考えてみてはどうでしょうか。ちょっとした柔軟さからビジネスが生まれるかもしれません。

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