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次世代救急車、踏切通行支援、落下物の先読み情報...ITSの進化が止まらない!

産学を中心に構成するITSジャパン(東京都港区、佐々木真一会長)は、高度道路交通システム(ITS)の発展や普及に向けた活動を推進している。自動運転や交通安全などをテーマに課題を整理して政策提言などを実施。現在は活動指針である第3期中期計画(2016―20年度)が進行中で、少子高齢化やエネルギーなど四つの社会課題に向き合う。誰もが快適に移動できる社会の実現に向け、産学の力を結集していく。(松崎裕)

【4つの課題設定】

ITSジャパンは自動車や電機、通信サービスなど産業界や大学といった研究機関、自治体など250社・機関以上が参加するNPO法人だ。「交通と街づくり」のファシリテーターとして関連する社会課題を抽出。取り組むべき方向性を政策提言し、社会実装を目指している。

これまでカーナビゲーションシステムの高度化や交通管理の最適化、料金自動収受システム(ETC)の普及などの各種取り組みに参画してきた。民間企業単独では取り組めない社会課題を産業界全体で共有して関係省庁に働きかけ、法改正や規制改革などにつなげている。

ITSジャパンは5年ごとにITSの実現に向け活動方針を示した中期経営計画を定めている。現在は第3期中期計画が進行中で、少子高齢化、エネルギー・環境問題、経済成長の鈍化、安全・安心の四つの社会課題を設定した。これらを解決するため、自動運転やMaaS(乗り物のサービス化)への技術に関連付け、移動による活力ある社会づくりを検討している。

一方で社会環境の変化やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)などの新技術がもたらす新しい変化も生じている。暮らしや街づくり、事業構造の方向性をとらえ、21年度からスタートする第4期中計の策定に反映させる考えだ。

【国際連携に貢献】

ITSジャパンは四つの社会課題を踏まえ、さまざまなテーマを検討している。

自動運転の実用化に向け、官民連携プロジェクトの参画や、自動運転を活用した将来像の検討に携わる。特に限定区域をドライバーの操作なしで走る自動運転「レベル4」の課題や、その解決に向けた活動を推進する。

これまで、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を支援し、自動運転に関する国際連携に貢献してきた。国際会議の開催など、欧米勢と互角に議論してきた。高精度3次元(3D)地図「ダイナミックマップ」やHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)、コネクテッドに関する専門家会議に参画し、一部を国際標準化につながる実績をあげた。

現在は、20年代にも市場投入される自動運転車両への信号情報提供や、自動車専用道路での合流支援のあり方を検討。道路の規制情報や落下物の先読み情報の提供などV2X(車車間・路車間通信)の要件の整理なども進めている。

ITSジャパンは全国で自動運転の実証実験に参画し、地域交通の課題解決を目指す(イメージ)
【未然防止に一役】

鉄道事業者や国土交通省、警察など連携し、ITSの技術を踏切事故の防止に役立てようとしている。踏切内外にカメラやセンサーを設置し、表示板を使うなど踏切事故の防止を支援するサービスを検討中だ。

踏切前後の道路で渋滞が発生していた場合、線路に立ち往生する車両が危険にさらされる。車の迂回(うかい)支援や障害物をいち早く検知・通報する仕組みを構築し、重大事故の未然防止につながる。

救急車の安全確保 進行方向・距離情報を共有

次世代救急車のあり方にも踏み込む。車両間同士の通信技術を利用し、救急車の進行方向や距離情報を共有して救急車の安全を確保する。救急車の居場所を交差点などで、周囲の車両に通知することで救急車のスムーズな通行につなげるとともに事故を削減する実証実験を実施した。

既にシステムの有効性を確認済みで、救急車が現場に到着する時間と病院に搬送する時間の短縮につながった。今後は全国の救急車に同システムが導入されれば、救急車の安全確保につなげる。

車両間同士の通信技術を利用し、交差点での救急車の事故防止につなげる(イメージ)

インタビュー/ITSジャパン常務理事・宇津木年典氏 リーダーシップ発揮を

ITSジャパンは21年度から始まる新たな第4期中計を策定する。次期中計について宇津木年典常務理事に聞いた。

―どのような検討プロセスを経てテーマを決めるのでしょうか。

「第3期中計の反省から活動ガイドラインを定め、次期中計のやるべきテーマを導き出す。まずは個が欲している根底の価値を抽出し、その上で数多く連携してきた地域や自治体が目指す姿から公共の価値を検討する。個人と公共の価値を実現する要件を出し、ITSの取り組みの方向性を見いだしたい」

―第4期中計を策定する上での方針は。

「ITSジャパンがよりリーダーシップを発揮し、活動をけん引することを強く打ち出したい。さらに業界団体の困りごとを共通課題としてテーマアップする。個別企業ではできないことを協調領域として取り上げ政策提言し、実現を目指す。社会課題の解決のためにやるべきことを積極的に提案し、テーマを定める」

―どのような取り組みを次につなげていきますか。

「やるべきことや、実現の手応えが見え始めた領域を強調していく。特にETCの駐車場利用や次世代救急車、鉄道の踏切の事故防止の取り組みなどだ。より多くの政策提言につなげる流れにしたい」

ITSジャパン常務理事・宇津木年典氏
日刊工業新聞2020年9月22日

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