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輸入車販売の4割を超えたSUV、日本に合った新型車が市場をけん引

輸入車販売の4割を超えたSUV、日本に合った新型車が市場をけん引

1月に発売して、輸入車全体の上半期の新車登録台数で4位になったVWの「ティークロス」

輸入車メーカーのスポーツ多目的車(SUV)が存在感を増している。日本自動車輸入組合(JAIA)によると、輸入車登録台数全体に占めるSUV(クロスオーバー車を含む)比率が年々伸びており、2020年8月は参考値ながら初めて40%を超えた。国内メーカーのSUVも好調だが、輸入車メーカーも国内初投入車や新型車で攻勢をかける。環境負荷低減に寄与する電動車のSUVも投入して販売拡大を狙う。(鎌田正雄)

「ビジネスやレジャー、街乗りでも違和感もなく使える。デザインや燃費、走行性が改善されていることも魅力になっているのでは」。JAIAの入野泰一副理事長兼専務理事はSUVの人気をこう推測する。SUVの比率は、15年の17%から19年には同32%まで増加。20年1―8月までの累計で同36%にまで伸び、8月には初めて40%を超えた。

車名別の販売でもSUVの好調さがうかがえる。20年上期(1―6月)の輸入車メーカーの車名別新車登録台数は、小型車や中型車が上位を占める中、1月に発売した独フォルクスワーゲン(VW)の「T―Cross(ティークロス)」が4位にランクインした。03年の統計開始以来、半期で初めてSUVがトップ5に入った。上位20車種では5車種のSUVがランクインしているが、今後増えそうだ。

「SUVは19年の国内販売全体の2割に迫る勢い。さらなる期待ができる」。メルセデス・ベンツ日本(東京都品川区)の上野金太郎社長は、SUVの売れ行きにはまだ伸びしろがあると指摘する。メルセデスは7月に7人乗りを標準採用し、高い走破性を実現した「GLB」を国内初投入した。同時にコンパクトなボディーで都市部での利用を意識した「GLA」も全面刷新して発売。大型から小型まで9モデルをそろえる。

フォルクスワーゲングループジャパン(愛知県豊橋市)は、“SUV3兄弟”の小型モデルで攻勢をかける。最も小さいティークロスは荷室が大きいのが特徴だ。7月にはスタイリッシュなデザインで“次男”となる「T―Roc(ティーロック)」を市場投入した。発売中の「Tiguan(ティグアン)」は本格的なSUVを求めるニーズに対応する。19年はSUVの販売比率が約12%だったが、新車投入効果もあり20年1―8月では同40%に近い数字まで伸びている。

独BMW子会社のビー・エム・ダブリュー(東京都千代田区)も日本のSUV市場を重視。大型から小型まで7モデルをそろえて多様化する顧客ニーズに対応する。日本の道路環境などに適した小型の「X1」、中型「X3」が販売をけん引している。

欧の新排ガス規制対応 電動車も登場

自動車の将来を語る上で欠かせないのが電動化だ。富士経済(東京都中央区)によると、35年の電気自動車(EV)の世界販売台数は、19年比11・8倍の1969万台。プラグインハイブリッド車(PHV)は19年比17・2倍の996万台を予想する。

その中でSUVの電動化も進んでいる。21年から欧州で本格的に排ガス規制が始まるため、欧州メーカーが電動車の市場投入を意識している。この流れにそって日本市場でも攻勢をかけている。

ボルボ・カー・ジャパン(東京都港区)は8月、20年末までに全ての国内販売モデルを電動車にすると発表。合わせて小型SUV「XC40」のPHVモデルを投入した。リチャード・スナイダース社長は「これにより(SUVの)全てのモデルで電動化が完了した」と強調。21年中にはEVを国内でも導入する予定だ。

ボルボのXC40の電動化モデル「XC40・リチャージ・プラグインハイブリッド・T5」

すでにメルセデス・ベンツの「EQC」、ジャガーの「I―PACE(アイペイス)」などSUVタイプのEVが販売されている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、輸入車の販売台数はまだ前年水準に戻っていない。ただ、下期にかけて反動増を期待する声も聞かれる。コロナ禍でも、販売比率を伸ばしたSUVの存在感が日本市場でさらに増しそうだ。

インタビュー/JAIA副理事長兼専務理事・入野泰一氏

新型コロナの影響で国内の自動車販売は前年割れの状況が続く。輸入車の足元の販売状況とSUVの動向について、JAIAの入野泰一副理事長兼専務理事に聞いた。

JAIA副理事長兼専務理事・入野泰一氏

―販売回復に向けた取り組みは。

「現在はオンラインを活用した販売や各メーカーの新型車の投入などで着実に回復、改善へと向かっている。中長期でみれば需要面で貢献する材料もある。人との接触を減らす安全な移動手段を求めるパーソナルモビリティーへの需要や自家用車での通勤、都心部から地方への移住などが挙げられる」

―コロナ禍でもSUVは販売比率を伸ばしています。

「各ブランドがSUVモデルを積極的に投入している。輸入車の特徴はさまざまなセグメント、価格帯のモデルがあること。日本市場に絶え間なく新車を投入することで、顧客の関心も高まり、相乗効果で好循環が続いている」

―今後のSUVの見通しは。

「国内市場全体でSUVは伸びている。需要・供給・生産面からみても、大きな可能性があると見ている。EV、PHVにおいてもSUVは重要な役割を果たすことが期待される」

日刊工業新聞2020年9月21日

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