テスラを追随できるのか?日本勢が新型EVで挑む「世界市場」への覚悟
日系自動車メーカー各社が電気自動車(EV)に本腰を入れている。日産自動車が新型EVを2021年に日本や欧州、中国などで販売するほか、トヨタ自動車は4月に高級車ブランド「レクサス」で初となるEVを中国で発売。ホンダやマツダは年内に欧州市場へ投入する。欧州や中国などでの環境規制の厳格化を受け、EVは今後も市場が拡大する見通し。同分野では米テスラを筆頭に欧州大手や中国メーカーも触手を伸ばしており、心臓部である車載電池の確保を含め、世界的な競争激化が見込まれる。(名古屋編集員・長塚嵩寛、山岸渉)
「環境規制」厳格化
日産のアリアはスポーツ多目的車(SUV)タイプのEVで、10年に発売した「リーフ」以来約10年ぶりの新型モデルとなる。フル充電からの航続距離は最大610キロメートルと、リーフの最上級モデルに比べて30%以上伸びる。補助金を含めた実質価格は500万円からと、テスラに引けを取らない価格競争力を実現した。
先進の運転支援技術も惜しみなく盛り込んだ。高速道路の同一車線内でハンドルから手を離した状態で運転できる「プロパイロット2・0」を搭載。準天頂衛星システムを活用して自車の位置を高精度に把握でき、運転支援の質を高めた。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は「アリアには日産の魅力がすべて詰まっている。日産の歴史の新たな扉を開くモデルだ」と期待をかける。
トヨタは4月下旬に中国でレクサスのEVモデル「UX300e」を発売した。大容量電池の床下配置により、低重心化と航続距離400キロメートルを達成した。SUV「UX」をベースとし、最高出力は150キロワット、電池容量は54・3キロワット時。今夏にも欧州市場に投入し、日本では21年前半に販売を始める。レクサスと同時期に小型SUV「C―HR/イゾア」のEVモデルも中国で発売した。
トヨタは環境規制の高まりなどを受け、30年に550万台以上としていた電動車の販売目標を5年前倒しした。EVでは20年代前半には10車種以上を品ぞろえする構えだ。トヨタの寺師茂樹取締役は「世界各地で二酸化炭素(CO2)排出削減に向けて、電動車両への期待が高まっている。我々もこれに応えるべく準備を急ぐ必要がある」と強調する。
このほか、ホンダとマツダは自社初となる量産型EVを年内に欧州で発売し、日本にも投入する計画。ホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)とEV2車種の共同開発にも乗り出す。SUBARU(スバル)はトヨタと組んで中・小型EV向け専用車台の開発を推進。スズキはインドでEVのコンセプトモデルを世界初公開した。
米テスラが世界けん引
富士経済(東京都中央区)によると、2035年のEVの世界販売台数は、19年比11・8倍の1969万台。ハイブリッド車(HV)の販売を2倍以上、上回ると予測する。20年から段階的にCO2排出規制が強化されている欧州、補助金や環境規制の厳格化が進む中国が需要をけん引するとみられる。
EV市場を主導するのは販売で世界首位を堅持するテスラだ。17年に投入した廉価車「モデル3」を中心に販売攻勢をかけ、19年は約37万台を販売。2位以下の中国・北京汽車集団や比亜迪(BYD)、ルノー・日産・三菱自動車連合を大きく引き離している。
生産能力の増強も加速。19年に中国・上海で新車両工場を稼働し、21年に欧州初となる車両工場をドイツに新設する計画。総生産能力は近く100万台に到達する見通しだ。
半面、トヨタ幹部が「電動車の本命がどうなるかまだ分からない」と指摘するように、当面はHVやプラグインハイブリッド車(PHV)などを含めた全方位の戦略が定石となりそう。コスト負担の軽減に向けた協業や提携も加速するとみられ、電動車市場の動向から目が離せない。
調達先多様化急ぐ
日系自動車メーカーはEVなど電動車の電池調達先を多様化している。電動車の心臓部である電池は電動車の品質など競争力を大きく左右する。安定的な調達は事業成長に欠かせないことから、トヨタやホンダ、日産は中国の電池メーカーなどと新たな協業に相次いで乗り出すなど連携を活発化している。
環境規制などの変化を受け、自動車各社は販売目標などを設けて電動車拡充を進める。電動車の拡大とともに電池市場も広がりを見せる。富士経済の調査では、35年に自動車向け駆動用二次電池の世界市場が19年比7・4倍の19兆7185億円に達すると予測する。
自動車メーカーは電動車需要の急拡大を見据え、電池が不足する事態に備えて調達先を増やしている。トヨタは長年組んできたパナソニックに加え、車載電池世界大手の中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や東芝、GSユアサなどに調達先を広げた。
例えば、GSユアサのリチウムイオン電池は、トヨタが6月に発売した新型SUV「ハリアー」のHVに初めて搭載された。GSユアサとホンダが出資するブルーエナジー(京都市南区)で製造する電池を採用した。
一方のホンダも新たな調達先を開拓する。米GMなどと、地域や車種ごとに電池の安定確保へ向けた取り組みを進めてきたが、CATLに1%を出資して資本提携した。ホンダの倉石誠司副社長は「高い技術力を持ったトップサプライヤーで、ホンダの電動化戦略を実現するために強いパートナーシップが必要だ」と意図を説明する。
CATLとの資本関係に踏み込むことで一層の電池の安定確保につなげる。ホンダが中国で生産するEV向けに22年をめどに電池の供給を受ける予定だ。中国以外で展開予定のEVなどへの搭載も検討するほか、研究開発やリサイクルなどの面でも協力する。
リーフで日本勢を先行していた日産は、中国のリチウムイオン電池メーカーのサンウォダ・エレクトリック・ビークル・バッテリーと、独自HVシステム「eパワー」向け次世代型電池の共同開発について検討を始めた。電動車の拡販を見据え、新たな供給先を追加する考えだ。日産は、EV向けなどに電池を納入してきたエンビジョンAESCグループだけではなく、CATLからの採用も増やしている。