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一人一人が自分なりの「かっこいい生き方」をデザインする価値観

一人一人が自分なりの「かっこいい生き方」をデザインする価値観

おいしいお米を食べるなど、シンプルで質のいい暮らしがこれからの基準になりそうだ

先日、会社を定年退職した知り合いからはがきをもらった。「在籍38年、〇〇〇を無事に卒業しました」。ぼくたちの世代にとっての普通だったことが、これからはまれなケースになるかもしれない。子どものころになりたかった仕事が、大人になったときにはなくなっていた、ということも起こってくるはずだ。

近い将来、人工知能(AI)によって働き方が大きく変わることは間違いない。人間のやってきた仕事の多くがAIに取って代わられる、あるいはAIのやれる仕事によって社会が再編されていく。当然、仕事を失う人も出てくるだろう。

将来は不安定で不確定である。いい大学に入り、大きな会社に就職して、生涯その会社で働く。定年までに払い終わるようにローンを組んでマイホームを手に入れる。定年後は再就職で5年ほど働いたのち、終活に入る。そんなライフプランは、ほとんど現実離れしている。

いまの若い人たちを見ていると、たくさんのお金を稼ぐことは、あまりかっこいいことではなくなっている気がする。大きな家を建てたり、豪華なタワーマンションに住んだり、高級車に乗ったりすることは、むしろセンスの悪い生き方になっているのではないだろうか。

なぜか? 時代に合わなくなっているからである。モノを持ち過ぎず、シンプルに暮らす。ミニマルな暮らしが支持され、浸透しはじめている。家とか車とかいうモノではなくて、いい友だちや仲間がいて、いい趣味があって、美しいものを美しいと感じるセンスがあって、食べ物もコンビニエンスストアやファストフードで済ますのではなく、健康のことも考えておいしいものを食べる、そういう普通だけれど質のいい暮らしがかっこよさの基準になりつつある気がする。

ライフデザインということが、あらためて見直されてくるだろう。一人一人が自分なりの「かっこいい生き方」をデザインする。価値観が変わろうとしているのだから、既成のプランやデザインは無効である。誰かから教えてもらうのではなく、自分で発明する。生きることは、これまで以上に手作りのものになっていくだろう。そしてクリエーティブなものになっていく。悪いことではないと思う。

日刊工業新聞2020年9月18日

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