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【片山恭一】人類のきょうだいはなぜ滅んだ?ぼくたちが二本足で歩くのは善を運ぶため

『世界の中心で、愛をさけぶ』の作者が届ける新たな物語

更科功さんの『絶滅の人類史』(NHK出版新書)によると、人類はホモ・サピエンスの他にも25種類以上いたらしい。それが全部絶滅してしまって、現在ではぼくたちだけが残っている。なぜ生き延びたのか?

進化論的に考えると人類は絶滅して当然だった。弱肉強食の生存競争を生き抜くためにはあらゆる点で劣っていた。喧嘩は弱いし逃げるのは遅い。敵を倒すための牙も爪もない。現に25種類以上いた仲間はみんな絶滅している。森を追い出されたサル目のなかで、ホモ・サピエンスと呼ばれる一群だけがかろうじて生き延びた。なぜだろう?

正解は子どもをたくさん産むことができたからである。面白くない結論と思われるかもしれないが、これから面白くなるはずなので、もうしばらくご辛抱いただきたい。チンパンジーやオランウータン、ゴリラなどの大型類人猿とくらべてヒトは授乳期間が短い上に、出産から数ヵ月でまた妊娠できる状態になる。マリー・アントワネットのお母さん、マリア・テレジアは生涯に16人子どもを産んだ。バッハも最初の妻とのあいだに7人、二人目のアンナ・マグダレーナとのあいだには13人も子どもをもうけている。

助け合いの精神が絶滅避ける

お母さん一人で大勢の子どもの面倒は見られない。おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなが協力した。お父さんは家族に食べ物を運ぶために直立二足歩行をはじめた。もちろん初期人類の話だから、お父さんやお母さんや家族といった言葉や概念はなかったにしても、ぼくたちの祖先が助け合い、支え合っていたのは間違いないようだ。協力して苦難を乗り切る術を知っていたのである。

そこがネアンデルタール人との違いだった。つまり絶滅の運命にあった二十何種類かの人類のうち、ただ一種類において、どういうわけか助け合いの精神が芽生えた。それがヒトになって、いまは人間と呼ばれている。なんだか勇気づけられる話ではないか。

ある日、草原を歩きまわっていたお父さんが、何か美味しそうな食べ物を見つけて、これを持ち帰れば家族は喜ぶだろうなと思った。そうしてうっかり立ち上がってしまった初期人類がいた。学名をホモ・サピエンス、和名ヒトと呼ばれる彼らのなかで生まれた善きものが、現在も駆動しつづけている。

ぼくたちが二本足で歩いているのは善を運ぶためだ、と考えてみよう。直立二足歩行はヒトが善を宿した生き物であることの象徴なのだ。この善なるものを知っているから、それが誰のなかにもあると確信しているから、ぼくたちは相も変わらず誰かを好きになって、ともに家族をつくって子どもたちを生み育てるのではないだろうか。この営みは人間がはじまって以来、一度も途絶えたことがない。すごいことではないか! 

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