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年間60万回の陳列作業を省人化、コンビニに導入されるロボットの展望

年間60万回の陳列作業を省人化、コンビニに導入されるロボットの展望

テレイグジスタンスが開発した小売店向けロボット(同社提供)

常時稼働店舗も運営

人手不足解消を目的にファミリーマートやローソンの一部店舗で、人に代わって作業する遠隔操作ロボットの試験運用が始まった。遠隔地の操縦者がVR(仮想現実)端末を操作して、店舗にいるロボットが商品を陳列する。これまで、種類が多く形状もさまざまな商品陳列はロボにとって一番難しい業務とされてきた。両社のロボ「Model―T(モデル―T)」を開発したテレイグジスタンスの富岡仁最高経営責任者(CEO)に現状や今後の展望を聞いた。

―まず何から着手しましたか。

「1日の平均的な店舗売り上げに対して、接客同様、陳列は業務の2割以上を占める。陳列作業回数は年間約60万回で、ここをどう省人化するかを課題に設定した。今回の試験では、バックヤードでペットボトル飲料の補充から始める。来夏には売り場に出て、おにぎりやサンドイッチなど中食商品の陳列も行う。ファミマとフランチャイズ契約を結んで、最大20店舗でモデル―Tが常時稼働する店舗運営も始める」

―店舗オーナーがロボを導入するには、どこまでコストを下げる必要がありますか。

「基本は『人を雇う代わりにロボを使う』という考え方なので、採用のための広告宣伝費、雇った後の管理費もなくしたい。初期導入費用の徴収は考えておらず、1陳列単位でロボが働いた役務提供に応じて、適正価格を頂戴する。人の採用より高くならないように設定し、コスト負けしないようにする」

―客がいてもロボは動かせますか。

「協調ロボなので人と同じ領域での作業に問題はない。食品スーパーなどへの導入も計画中で、故障対応の体制も整備する。ギアやモーターの故障は電流情報の変化をインターネット監視で把握でき、実際の修理は専門の業者が担う。店舗オーナーの負担が増えることはない」

―パンなど柔らかいもの、薄いフィルム入り商品をつかむことは可能ですか。

「技術的にクリアできている。この商品はこのくらいの力を使う、というのはロボ側で制御しているので、操縦者がコントロールしなくても良い」

―賞味期限を見て並び替えはできますか。

「可能だが、目指すのは無人化ではなく省人化。その業務をさせるとロボの価格が高くなってしまう。人がやった方が圧倒的に早いため、廃棄処分を含めてその業務をやることは想定していない」

―今後の課題は。

「人に比べてロボの動作スピードはまだ遅い。人と同じにするにはどうするか。遠隔操作から自動化まで進める際の機械学習のレベルも足りない。また、小売業の方たちはロボを活用する意気込み、ロボメーカーは小売業の経済性に合った開発をしないといけない。双方のギャップを埋める必要がある」(取材は電話で実施。写真はオンラインで撮影)

テレイグジスタンスCEO・富岡仁氏

【記者の目/画期的な取り組み、業界に一石】

富岡CEOが「自動車や電機業界で使われてきたロボが工場を飛び出す」と表現するくらい、今回のコンビニでの取り組みは画期的なことだ。ロボ導入価格ではなく作業ごとの対価支払いも、経済性が厳しい小売業界ならでは。アルバイト店員と同額か、それより安い価格を設定する予定といい、同社が小売業界のロボット普及に一石を投じるのは間違いない。(編集委員・丸山美和)

日刊工業新聞2020年9月11日

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