10年で売上を5倍にしたスノーピーク、コロナ禍で高まるキャンプ熱は新社長の追い風に
オンラインで潜在顧客開拓
新型コロナウイルス感染拡大が続く中、キャンプなどのアウトドアが注目されている。利用者間の距離が保てることや風通しの良さが安心材料となり、キャンプ場の客足が伸びてきた。市場の広がりをどう見るか。3月に社長に就任したアウトドア大手、スノーピークの山井梨沙社長に聞いた。
―新型コロナ禍の影響は。「4、5月は国内直営店の9割を休業したため、実店舗の売り上げがほぼ立たなかった。一方、オンラインストアにチャットの接客サービスを導入したところ、月によっては前年比約3倍まで売り上げが伸びた。6月以降もオンラインストアの売り上げは前年を上回っており、実店舗も業績が戻りつつある」
―市場の先行きをどう見ますか。「外出できない中で、自然と関わりたいという欲求が高まり、キャンプ経験がなかった層にも関心が広がっていると感じる。国内のキャンプ人口はここ10年ほど毎年約2―3%ずつ増え、直近で860万人規模。だが今後10年以内に1200万人規模まで拡大するのではないか」
―市場の成長を取り込む施策は。「一つはオンラインの活用だ。ユーザーコミュニティーを重視するのが当社のビジネスモデル。社長や役員・スタッフとユーザーが一緒にキャンプし、たき火を囲んで話をするイベントなどを毎年開催してきた。今回、そうしたイベントが一時、開催できなくなったが、代わりに『ヴァーチャル焚き火』など双方向のオンラインイベントを数多く行い、既存ユーザーとのつながり強化に努めた」
―新たな顧客開拓にどう取り組みますか。「潜在的ユーザーへのアプローチでもオンラインを重視する。SNS(会員制交流サイト)で拡散し、今まで当社を知らなかった人にも当社を知ってもらい、興味を感じて当社ホームページを閲覧してくれた人をオンラインチャットに誘導して購入につなげたい」
「2018年発売の初心者向けテントセットを戦略製品と位置付け、他の製品より低価格で販売している。初心者向けセットで品質の良さや使いやすさを実感した方が、テント以外の道具も購入し、コアユーザーになる流れができている。ポイントカードの新規会員数は18年の35万人から19年に43万人と20%以上増え、市場の伸びを上回った。今年は新たに10万人増やしたい」
―実店舗の数も増やしています。「白馬村に体験型商業施設を開業した。当社製品を購入できるほか、レストランや宿泊施設も備える。ものを買って終わりではない、体験型消費への対応を強化する。オンラインとリアルのどちらかでなく全ての販売網を伸ばしたい」
【記者の目/成長の種、育て刈り取り】
10年で売上高を約5倍に伸ばしたスノーピーク。成長を続けるには、国内外の「スノーピークを知らない層」に、競合の2―3倍する同社商品を購入してもらう必要がある。他企業や自治体との協業、米国での「焚き火」商品の発売など、前社長はそのための種をまいた。種を育て成果を刈り取れるか、新社長の手腕が問われる。(新潟・山田邦和)