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社員全員がキャンパー、「自らもユーザー」というスノーピークの体験価値はなぜ強い

目的や目標、思いに人は集まり組織となる
社員全員がキャンパー、「自らもユーザー」というスノーピークの体験価値はなぜ強い

キャンパーとして顧客との交流を図る山井太会長(右から3人目)

組織が存在する理由や社会に対しての役割、経営目的などを記した声明をミッションステートメントという。「The Snow Peak Way」と称するミッションの実現を目指している企業が、アウトドア用品事業を展開するスノーピーク。社員全員がキャンパーで、声明には「私達は、自らもユーザーであるという立場で考え、お互いが感動できる体験価値を提供します」という一文を盛り込んでいる。

「スノーピークの根幹はデザイン企業だ」と強調するのは高井文寛副社長。これは単に視覚的な意味だけではなく、経営全体をデザインするという戦略を含む。例えば、ミッションステートメントには「自然志向のライフバリューを提案し実現する」とある。ビジネスを通じて幸せな日常生活に導くため、商品やサービスをデザインするという考え方だ。

スノーピークのミッションが経営判断の原点となったのは、1998年に開催したキャンプイベントだった。当時は景気後退に伴って第1次オートキャンプブームが終わり、年々売り上げが下がっていた時期だ。改善点を探ろうとしたが、流通を担当する問屋はキャンパーでも、商品を使っているわけでもないだけに、不調の原因をなかなか把握できなかった。

ただ、キャンプ場は依然として多くの人でにぎわっていた。このため問屋に頼らず実際に商品を使っているユーザーとキャンプを行うことで、生の声を拾うことにした。

参加者からは価格の高さと、全ての商品を扱う売り場がないなど品ぞろえの悪さを指摘され、ブームの終焉(しゅうえん)だけが低迷の要因ではないことが判明した。このため翌年には流通を含めて変革に踏み切り、問屋との取引を一切中止。小売店は1商圏に1店舗で全商品を置いてくれるところに限定した。その結果、価格を平均で35%下げることに成功し、業績も回復傾向に転じた。

目的や目標、思いに人は集まり組織となるため、明文化していなくても、企業にはミッションステートメントがあるはず。それはデザイン戦略のひとつでもあり、業績を支えるための重要な役割を果たしている。

(松田雅史・デロイトトーマツベンチャーサポートMorningPitch・新規事業開発ユニット)
日刊工業新聞2020年5月22日

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