低い申請率、事業参加見合わせも…どうなるマイナポイント
政府による消費活性化策「マイナポイント」事業が1日に始まった。キャッシュレス決済を使うマイナンバーカード保有者にポイントを付与することで、同カードを普及させつつ、“脱・現金”の機運を高める狙いがある。しかしカードの交付状況は低調に推移。同事業への参加を見合わせる決済サービス企業もあり、盛り上がりに欠ける印象が否めない。今後マイナポイントへの支持は広がるのか、それとも尻すぼみで終わるのか。(斎藤弘和、戸村智幸)
マイナンバーカード、交付伸び悩み
8月1日時点で交付枚数は2324万枚、人口に対する普及率は18・2%―。マイナンバーカードは依然、5人に1人程度しか行き渡っていない。
マイナンバーカードの所有者は、7月1日からマイナポイントの申し込みが可能になった。申込時にクレジットカードや電子マネーといったキャッシュレス決済サービスの中から一つを選び、9月1日以降、チャージか買い物をしてポイント還元を受ける。還元上限額は5000円分だ。
ここ半年ほど、マイナンバーカードの交付枚数はジリジリと増加。7月以降は伸びが大きくなってはいるものの、8月25日時点でも約2420万枚にとどまる。また、マイナポイント申込者数は、300万人を超えたにすぎない。国の予算上はマイナポイントを利用できるのは4000万人までだが、それを上回る可能性は極めて低いと推測される。
マイナポイントの滑り出しは上々とは言いづらいが、総務省は「ポイント付与が始まれば申し込みが伸びると期待している」(自治行政局)。各決済事業者が展開する周知活動の効果も見込む。
携帯各社、還元“小粒”に
だが企業による広報効果は大きくはないかもしれない。2次元コード(QRコード)決済を手がける携帯通信大手はマイナポイント利用に当たって自社の決済サービスを選んだ消費者へ独自の特典を付与している。NTTドコモは最大2500円相当、KDDIは同1000円相当をそれぞれマイナポイントとは別に進呈。ただ携帯各社は従来、利用金額の20%程度を還元し、還元上限額も万円単位となるキャンペーンを展開していた。それらに比べると今回は小粒な施策とも言える。
政府は2019年10月から20年6月まで「キャッシュレス・ポイント還元事業」を実施。携帯各社はこれと並行して、自社での大規模なポイント還元も展開した。結果、例えばドコモはコード決済「d払い」の利用者数が、19年度末時点で18年度末比約2倍の2526万人になった。 しかし、独自の大型ポイント還元は収益面を考えると長くは続けられない。またMMDLabo(東京都港区)が7月下旬に行った調査では、マイナポイントに登録したいキャッシュレス決済として、ソフトバンク系の「ペイペイ」が首位を獲得。ドコモとKDDIのサービスもそれぞれ上位に入っている。携帯各社は決済分野で既に一定の存在感を確立したとも言える。一人の消費者がマイナポイント申込時に選べる決済サービスは一つだけのため、決済事業者は自社を選んでもらう工夫が求められる。ただ、大手クレジットカード会社をはじめとしてマイナポイント事業に参加していない企業も多く、競争は限定的との見方もある。携帯各社が今後の販促で背伸びをする必要性は低く、結果としてマイナポイントの認知度が高まらない可能性も考えられる。
カード大手、目立つ不参加
クレジットカード業界では、マイナポイント事業への期待はそれほど高まっていない様子だ。参加するクレジットカード事業者は1日時点で21社。日本クレジット協会の市場規模統計によると、19年12月末時点のクレジットカード発行会社は275社で、同事業に参加する会社は一部にとどまっている。
大手も不参加が目立つ。ショッピング取扱高上位とみられる企業では三菱UFJニコス、JCB、クレディセゾンが参加しない。三菱UFJニコスは「経営判断で参加を見送った」と説明。JCBは「新型コロナウイルスの影響で見送った」と理由を挙げる。当初は参加する方向で検討していたが、感染拡大を受け、カード会社の通常業務を優先した。
参加が低調な背景には、マイナンバーカードの取得が条件の上、利用者へのポイント付与が最大5000円相当ということがある。カードの取得率が低い中で、取得の手間と付与ポイントをはかりにかけ、参加意欲が高まらないと判断した会社もあるとみられる。
参加するカード大手からは、一定の期待の声が上がる。参加事業者に対しては、政府が付与ポイント分を補助するほか、システム開発費や事務経費の一部を補助する。そうした点を念頭に、オリエントコーポレーションの飯盛徹夫社長は「当社に負担がかからず、カード会員にポイントを還元できる」と歓迎する。本人確認の効率化の必要性から、「マイナンバーカードの促進は大事だ」と事業の趣旨にも理解を示す。
三井住友カードは、カード会員との関係向上につなげたい考え。会員がマイナンバーカードを取得して同社を登録することで、「より愛着を持って使ってもらえる」(マーケティング本部)と期待する。
1980年に「Visa」ブランドのクレジットカードを日本で初めて発行して以来、キャッシュレス決済を先導してきた自負もある。「リーディングカンパニーの当社が参加しないわけにはいかない」(同)という思いだ。カード大手の多くが不参加を決めた結果、差別化要因になるとの期待もある。
マイナポイント事業では参加事業者は最大5000円相当のポイントのほか独自にポイントや特典を付与できる。多くのコード決済事業者が登録者全員に独自分を上乗せする一方、カード各社は抽選当選者にとどめるケースが多い。コード決済事業者が顧客獲得を狙うのに対し、カード各社は現会員への“誠意”を示した格好だ。
カード各社には事業趣旨への賛同や現会員へのサービス向上目的という明確な参加理由がある。不参加組も含めマイナポイント事業を冷静に分析している印象だ。