国内で供給準備進む新型コロナワクチン、どれが本命?

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アストラゼネカ公式ページより(写真はイメージ)

新型コロナウイルスのワクチン開発が進んでいる。政府は海外の製薬企業と交渉を開始し、実用前からワクチンの確保に乗り出す。さらに国内の製薬企業との提携を通じ、製造や流通体制の整備も始まった。国内供給の準備が着実に進む一方、開発中のワクチンの有効性と安全性は不明な部分も多い。緊急性の高さから急ピッチで開発されるワクチンだが、実用化した後も継続した安全性評価が必要だ。(安川結野)

政府、実用化前から交渉

日本政府は7日、英アストラゼネカが開発中の新型コロナウイルスワクチン「AZD1222」について、1億2000万回分の供給を受けることで基本合意した。2021年初頭の供給開始を見込む。英オックスフォード大学が主導する第1/2相試験の中間解析によると、AZD1222の接種で新型コロナウイルスに対して抗体が増加し、免疫反応を示した。AZD1222の開発はすでに第2/3相試験へと移行し、日本での臨床試験実施も予定している。

ワクチン確保に向け、実用化前の段階から政府が製薬企業と交渉を進める動きは世界で活発化する。21日に開かれた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会後の会見で、尾身茂会長は「国としてワクチン確保に全力を挙げて取り組んでほしい。開発段階のうちから確保に向けた判断が必要だ」とし、交渉の重要性を強調した。

新型コロナ感染拡大状況は、国や地域ごとに差があるもののいまだ収束には至らない。全世界の感染者数は約2300万人、死亡者数は約80万人にのぼる。日本国内の感染者数も6万人を超える。ワクチン接種によって人命を守るとともに、経済活動の再開、継続へ期待がかかる。

欧米から2億4000万回分供給で合意

日本政府とアストラゼネカの基本合意も、こうした大きな流れの一つだ。政府はすでに、米製薬企業のファイザーと独バイオベンチャーのビオンテックが開発中のワクチンについても1億2000万回分の供給を受けることで合意している。アストラゼネカが開発中のワクチンと合わせると、2億4000万回分のワクチンを確保したことになる。

国内供給を見据えたワクチンの製造、流通体制の整備も進む。AZD1222についてワクチン原液はアストラゼネカからの輸入と並行し、JCRファーマ(兵庫県芦屋市)が製造を受託。第一三共の子会社である第一三共バイオテック(埼玉県北本市)と、KMバイオロジクス(熊本市北区)がワクチンを製剤化する。ワクチンの保管と配送は、Meiji Seika ファルマ(東京都中央区)が行う。

米バイオ企業のノババックスも、開発中のワクチン「NVX―CoV2373」の日本への供給に向けて武田薬品工業と提携した。武田薬品は、同ワクチンの承認申請や製造、流通を担う。厚生労働省から約300億円の助成を受けてノババックスから技術移転や生産設備の整備を進め、年間2億5000万回分以上の生産能力を構築する見込みだ。

安全性の継続評価重要

ワクチン供給について具体的な枠組みが構築され実用化への期待が高まるが、まだ臨床試験で有効性や安全性が評価されている段階だ。開発中のワクチンの多くが核酸や、遺伝子を細胞内に運ぶウイルスベクターなどを活用している。弱毒化したウイルスを使う「生ワクチン」や、感染能力を失わせた(不活化した)ウイルスによる「不活化ワクチン」など、これまで広く利用されてきたワクチンとは異なる。尾身会長は「有効性や安全性は、科学的に分からないことが多く、市場に出た後も安全性の監視が必要だ」とし、「安全性に関する情報収集や発信、市民とのリスクコミュニケーションも行っていく」と強調した。

新型コロナワクチンをめぐっては、有効性や安全性について、さまざまな臆測が飛び交う。しかし新型コロナの世界的流行が3月に始まってからまだ半年程度しか経過しておらず、分かっていないことも多い。ワクチンの効果に大きな期待がかかるが、実用化した後も追跡調査をするなど検証が求められる。

ワクチン供給で英アストラゼネカと合意(同社ステファン・ヴォックスストラム社長(左)と加藤勝信厚労相)

インタビュー/北里大学大村智記念研究所教授・片山和彦氏 核酸の利用に高い関心

開発中の新型コロナワクチンは、実用化まで1年程度を見込むなど短期決戦の様相を呈する。短期間の開発がなぜ可能で、安全性や有効性はどう評価されるのか。ワクチン開発に詳しい、北里大学大村智記念研究所の片山和彦教授に聞いた。

―ワクチンの開発は通常どのように進められますか。

「数十人規模の第1相試験の後、やや規模を大きくした第2相試験を行う。さらに第3相試験では数千人から数万人に投与し、効果と安全性を評価する。通常、第1相試験から承認申請までには5年ほどかかる。しかし新型コロナワクチンは、緊急時ということで製薬企業が政府の要請に応じながら開発を急いでいる状況だ」

―核酸ワクチンに注目が集まる理由は。

「従来のワクチンより安全性が高い可能性があるのが一因だ。生ワクチンや不活化ワクチンの場合、元のウイルスに感染してしまう懸念がある。こうした有害事象を防ぐため厳しく安全性評価を行うが、新型コロナワクチンは開発の緊急性が高く、時間や人が足りない。核酸ワクチンは細胞内で新型コロナのたんぱく質が作られて抗体ができる仕組みなので、接種しても新型コロナ感染症にかかる心配がない。安全性の高さから、迅速な開発が可能な核酸ワクチンが選ばれているのではないか」

―核酸ワクチンの弱点はありますか。

「感染過程を再現できないことだ。核酸ワクチンの場合、細胞内で自分以外のたんぱく質が作られるという現象の再現はできるが、体内に侵入した異物に対する免疫応答は起きない。核酸を打ち込む技術は以前からあったが、体内への侵入を再現できず免疫の誘導が不十分で有効性が低いといった課題があった」

―ワクチンによる有害事象の懸念は。

「ADE(抗体依存性感染増強)の懸念が大きい。ADEとは、ウイルスを中和できない抗体がウイルスにくっついてしまうことによって免疫細胞の中でウイルスが増え、感染が広がる現象だ。同じコロナウイルスの重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)のワクチン開発も、ADEによって頓挫している。ADEを抑えられるような抗体を作る工夫が必要だ」

―ワクチンの有効性について、予測できることはありますか。

「ワクチンの評価には絶対的な時間が必要だ。ワクチンを接種した人が接種しなかった人と比べて新型コロナにかからないかは、ウイルスが社会に存在する状況で生活して、一定期間調べないと分からない。ワクチンの有効性や安全性に確信を持つには数年かかるため、新たな治療薬の開発も進めるべきだ。感染状況やワクチンの開発状況などに一喜一憂せず、全体を捉えることが重要だ」(オンラインで実施)

北里大学大村智記念研究所教授・片山和彦氏

日刊工業新聞2020年8月25日

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