抗寄生虫薬がウイルス感染症に効く?進むイベルメクチンの臨床計画

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米メルクの「メクチザン」(一般名イベルメクチン=日本法人提供)

新型コロナウイルス感染拡大を受け、世界中で治療薬開発が進む。世界の感染者は既に700万人を超え、死亡者は40万人にものぼる。こうした中、抗寄生虫薬「イベルメクチン=用語参照」に新型コロナ感染症患者の死亡率を下げる効果があるとして、注目が集まる。「イベルメクチン」の臨床試験を計画する北里大学感染制御研究センターの花木秀明センター長に聞いた。

―抗寄生虫薬はなぜウイルス感染症に効果があるのでしょうか。

「ウイルスが体内で増殖するには、感染した細胞の核内にウイルス自身の遺伝子が移動する必要がある。イベルメクチンは、ウイルスの遺伝子を核内に運搬するたんぱく質を阻害するとされる。また、ウイルスの遺伝子から作られたたんぱく質は、適切な大きさに切断されることで、遺伝子を複製する機能を持つようになる。ウイルス由来たんぱく質を切断する酵素をイベルメクチンが阻害している可能性もある。これまでにHIVやデングウイルスで効果が報告されいている」

―イベルメクチンの強みは。

「現在も年間約3億人に投与されている。大きな副作用は報告されておらず、全世界で多くの人に使われ続けていることは、安全性において大きな強みだ。現在検討される薬の多くは、入院日数を短くする可能性が示唆されているが、イベルメクチンは死亡率を改善する効果も期待されている。新型コロナ感染症の救命率を上げる可能性がある」

―死亡率に注目する理由は。

「新型コロナ感染症患者の8割が軽症とされる。それでも世界から恐れられるのは、治療法がなく、医療機関の逼迫(ひっぱく)が進むと入院による治療が受けられなくなるからだ。イベルメクチンの投与で死亡者が減る、つまり治療できると分かれば、社会にとって新型コロナは季節性インフルエンザのようなものになるだろう」

―夏に向けて気をつけるべきことは。

「コロナウイルスは高温・多湿環境で感染力が低下する。そのため新型コロナも夏は感染力が弱まる可能性があるが、エアコンで温度が下がり乾燥した室内では、引き続き注意が必要だ。感染の波は北半球と南半球で間断なく起きるので、新型コロナが社会からなくなることはないだろう。リボ核酸(RNA)を遺伝子としており、変異の懸念もある。治療薬開発を進め、作用ポイントが異なる複数の治療薬が使える環境を整えていくべきだ」

―北里大ならではの取り組みは。

「寄付制度を活用した研究費の確保が成功している。北里大では『COVID―19対策北里プロジェクト募金』を3月に開始した。集まった資金は、治療薬の開発といった研究費に迅速にまわすことができる。2021年3月末までの期間だが、すでに個人や企業から多くの支援を頂いており、期待の大きさを実感する。研究成果を社会へ還元したい」

―治療法の早期確立と安全性の両立が重要です。

「臨床研究のデータがきちんと示され、効果と安全性のバランスを見極めることが重要だ。特に安全性が分からなければ現場の医師が使うのは難しいだろう。ルールを守った開発が必要だ。緊急事態宣言が出された時期は患者も多く医療機関も逼迫した状況で、政治的な判断が強く求められた。しかし現在は全国的に流行は一旦落ち着きを見せている。科学的な検証をすべきタイミングだ」


【用語】

イベルメクチン=寄生虫によって起きる「オンコセルカ症」の治療に使われる。オンコセルカ症は目のかゆみや発疹などが生じ、失明に至ることもある感染症で、イベルメクチンは現在でも年間約3億人に投与されている。イベルメクチンのもととなる化合物アベルメクチンの発見により、北里大の大村智特別栄誉教授は2015年、ノーベル賞を受賞した。新型コロナ感染症への効果については、米ユタ大学が研究を実施。1408人を対象に行った研究によると、イベルメクチンを投与した患者全体の死亡率は8・5%から1・4%に低下した。うち人工呼吸器が必要な重症患者の場合の死亡率は、21・3%から7・3%に改善した。


【記者の目/戦いを大きく変える薬】

新型コロナ感染症治療薬の開発は総力戦だ。ドラッグリポジショニング(既存薬の転用)で治療法を確立する場合、「新しい薬」が「優れた薬」とは限らない。むしろ安全性の観点からは、イベルメクチンのように歴史の長い薬の方が有利ともいえる。新型コロナとの戦いを大きく変える薬として期待がかかる。(安川結野)

北里大学感染制御研究センター長・花木秀明氏

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