【新型コロナ】レムデシビル、アビガン、富岳...第2波を防ぐ!ワクチン・治療薬最前線

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透過型電子顕微鏡で撮影した新型コロナウイルス(NIAID−RML提供)

世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている。同ウイルス感染症の患者が国内で報告されてから16日で半年。新型コロナによる世界での死者数は57万人を超え、国内では1日当たりの新規感染者数が高止まりするなど流行の第2波の兆候もある。今秋以降に予想される爆発的な流行を抑えるため、医療機関や研究機関が得た知見を基に、大学や企業によるワクチンや治療薬の開発が始まっている。

病態や対策、明確化

日本政府は1月16日、新型コロナによる肺炎患者の発生を国内で初めて確認したと発表した。厚生労働省によると直近で、国内の新型コロナ累積感染者数は2万2000人、死亡者数は980人に達した。この間、病態や感染の仕組み、感染対策なども明らかになりつつある。

新型コロナは重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)などと同様のウイルス。感染者の多くは軽症や無症状だが、高齢者や糖尿病といった持病を持つ患者など全体の数%が重症化する。重症化の原因に免疫が自分の体の正常な組織を攻撃する「サイトカインストーム」などが指摘されている。

日本を含む東アジア地域の新型コロナによる死亡者数は海外から少ないと見られている。一般的に日本人の死亡者数が少ない要因として、高いマスク着用率や手洗い、過去に類似ウイルスが流行した際に免疫を獲得した可能性、乳幼児期のBCG接種などが挙げられる。

慶応義塾大学や東京医科歯科大学などの共同研究グループは5月、「コロナ制圧タスクフォース」を設立。従来考えられていた日本人の習慣だけでなく、人種間での遺伝学的違いが重症化に関わる可能性が大きいと仮説を立て、新型コロナの重症化に関連する遺伝子の探索を始めている。

新型コロナはせきや会話などによる飛沫(ひまつ)が主な感染経路とされる。ウイルスはヒト細胞に侵入することで感染し、感染後2週間程度で発症すると考えられている。飛沫を遮断することが感染拡大を防ぐ有効な手段だ。

理化学研究所は6月、富士通と共同開発するスーパーコンピューター「富岳」を利用し、くしゃみや会話時の飛沫拡散のシミュレーションを実施。会話での飛沫が2メートル程度飛ぶため対話者の正面にいることはリスクが高いがパーテーションで区切ることで飛沫到達量を10分の1以下に減らせることを示した。

新型コロナはせきの飛沫だけでなく、手すりやドアノブなどを経由した間接的な接触で感染する。また換気が十分でない環境では、せきやくしゃみなどがなくても感染すると考えられている。(冨井哲雄、山谷逸平)

製薬業界、開発アクセル

世界の感染者が増加するにつれ、医療機関の逼迫(ひっぱく)も深刻化した。重症患者の治療法がなく、急増する入院患者への対応が困難な状況に陥った。

こうした中、製薬各社は既存薬から新型コロナ治療薬へ転用する「ドラッグリポジショニング」の戦略で、治療薬開発に乗り出した。4月には富士フイルム富山化学(東京都中央区)の抗インフルエンザ薬「アビガン」の臨床試験が開始。中外製薬のリウマチ治療薬「アクテムラ」や、日医工の急性膵炎(すいえん)治療薬「フサン」、さらに米MSDの寄生虫感染症の治療薬「イベルメクチン」なども、新型コロナ治療薬として開発が始まった。

既存薬を新型コロナ治療薬として転用する場合、新薬と比較して開発期間が短いという利点がある。新薬の開発では薬の候補となる化合物や抗体などを探索し、動物などで安全性と有効性を確認する必要がある。人へ投与する段階でも、まずは健康な人へ投与して安全性を確認する第1相試験の実施が必要だ。

既存薬は第1相試験が実施済みで、再度行う必要がない。広く使われている医薬品は、臨床試験のデータに加えて安全性に関する情報も蓄積されており、未知の副作用の懸念が少ないことも開発のメリットだ。感染者が急増し治療薬が強く求められる状況では、迅速性の観点からドラッグリポジショニングの戦略が多くとられた。

新型コロナの根本的な解決には、ワクチンの開発は不可欠だ。ワクチンが開発されるまでは既存薬の中から有効な治療薬を見つけて重症者を治療し、医療機関の崩壊を回避することが求められる。

複数の医薬品を同時に開発することで、より効果的な治療法が確立できる可能性もある。例えばアビガンは、ウイルス遺伝子の複製を阻害して増殖を防ぐ効果があるとされる。フサンは、ウイルスがヒトの細胞へ侵入する過程を阻止する作用があると考えられている。また、アクテムラは炎症を引き起こす物質「インターロイキン―6(IL―6)」の作用を阻害する。異なる段階に対して作用する薬が使えるようになれば、治療の選択肢が増え治療効果の向上につながる。(安川結野)

DNAワクチン臨床

アンジェスは、大阪大学やタカラバイオ、シオノギファーマ(大阪府摂津市)などと共同で「DNAワクチン」を開発している。危険な病原体を一切使用せず、安全かつ短期間で製造できるのが特徴だ。3月に開発を発表し、6月末に大阪市立大学医学部付属病院で臨床試験を開始した。

共同開発に取り組む阪大の森下竜一寄付講座教授は「詳細は臨床試験が終わるまで言うべきではないが、順調に進んでいる」と明かす。どの医療機関かは未定だが、10―11月により大規模な試験を実施する方針だ。

「DNAワクチン」(大阪大学提供)

DNAワクチンは対象となる病原体のたんぱく質を発現する遺伝子を組み込んだ環状DNAを使う。新型コロナのワクチンには表面にある突起状の「スパイクたんぱく質」を組み込む。

このDNAを摂取すると、体が同たんぱく質を抗原として認識。体内に抗体が作られ、感染や重症化を抑制する効果が期待できる。不活化ウイルスを利用しないため安全性が高いとされる。ただ、森下寄付講座教授は「安全性の確認は特に重視する。健康な人に投与するため、特に慎重さが必要。できるだけ早く、安全で有効性の高いワクチンを開発したい」と意気込む。(門脇花梨、大阪編集委員・安藤光恵)

日刊工業新聞2020年7月16日

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