ロボット業界もオンラインでアピール模索中
新型コロナウイルス感染症の影響拡大により「3密(密閉・密集・密接)」の回避が進む。ビジネス分野では製品・技術を紹介する主要な場であった発表会や展示会が軒並み中止・延期されている。だが、企業にとって自社をPRする場は不可欠。新型コロナ時代に対応した新たな訴求方法が求められている。ロボット業界でもリアルからデジタルへの移行がキーワードになっている。(川口拓洋)
国内メーカー、仮想空間に工場再現へ
ファナックは例年4月に山梨県忍野村の本社で「新商品発表展示会」を開催するが、2020年は新型コロナの影響を考慮し、開催を見送った。
「これに代わる仕組みとして、デジタルやバーチャルでの展示会を検討している」と明かすのは山口賢治社長。ウィズコロナ時代の技術や製品の訴求方法を模索している。同社が構想するバーチャル展示会では、段階を踏んで製品や技術のラインアップを充実させていく方針。秋ごろにもデジタル上での展示会の開催を計画する。
同社の自社工場ではコンピューター数値制御(CNC)装置や工作機械、ロボットなどをロボットが製造している。山口社長は「工場をお客さまが実際に見ることで自動化・ロボット化の効果の理解につながっている」との認識を示す。バーチャル展示会だけでなく、工場を仮想空間上で紹介するような取り組みも進めている。
安川電機はホームページ上で「バーチャルショールーム」を運営する。メカトロシステムなどを動画やアニメーションを使って紹介する。三菱電機のFAシステム事業本部も産業メカトロニクス製品を紹介するチャンネルを動画配信サービス「ユーチューブ」で展開している。
SIer、テレビ会議で説明会参加
FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、東京都港区)は、オンラインによる新製品説明会を主催する。6月中旬にロボットシステムインテグレーター向けの「第1回WEB新商品説明会」を開催した。初めての取り組みにもかかわらず、30社が発表企業として集まった。
米マイクロソフトの「チームズ」や米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのテレビ会議システムなどのウェブツールを利用して参加する。企業は指定された時間の枠で商品を発表・説明する。視聴希望者は事前に希望する企業の発表会を選択し、必要事項を入力すると実施企業から開催ルームIDなどが送られてくる仕組みだ。
6月の説明会では、開催時間は10―16時の範囲で6枠を用意。説明する時間は質疑応答を除いて各30分。ロボット部品メーカーがシステムインテグレーターらに向けて説明した。1回の定員は企業により異なるが、80―250人が同時に視聴できる。
同協会では、会員のシステムインテグレーション能力向上につなげるため、ロボットシステムに関わるツールを紹介する新商品説明会を実施してきた。これまでは19年7月、11月、20年1月に実際の会場を借りて開催した。同協会は8月下旬に次回の新商品説明会の方針を協議する。新型コロナの影響を考慮して、オンライン開催の公算が大きい。
海外メーカー、セミナー生配信で視聴情報分析
デンマークのユニバーサルロボット(UR)は、オンラインツールを活用した製品・事業紹介を進めている。ウェブ上でセミナーを行う「ウェビナー」を4月下旬に開始し、現在は十数個のコンテンツを提供する。2020年度中に20―30コンテンツの製作・提供を目指す。誰でも参加可能なオンラインで、既存だけでなく新規の顧客も取り込む。
同社のウェビナーはリアルタイム映像を流す「ライブ方式」と、視聴者が見たいときにコンテンツを視聴できる「オンデマンド」方式の2種類を提供する。
「協働ロボットの導入に関する注意点」や「ユニバーサルロボットの特徴」などの内容。ライブは少なくとも1週間に1回は実施する。1回につき200―500人の視聴があるという。
ウェビナーは展示会に比べ製品販売に結びつくか不明確な面もあるが、時間や場所を選ばず情報を訴求できるメリットがある。また視聴者にIDを振ることで、視聴者ごとの視聴回数や視聴時間などを計ることができ、実際の訴求に結びつけられる。
同社もバーチャル展示会を模索する。欧州の拠点では4月以降に複数回オンライン上で展示会を開催しており、そのノウハウを活用して日本でも実施する。20年内に数回行う予定だ。
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