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コロナ禍の接客サービス、オンライン化の先の競争が始まった

コロナ禍からの変革 NEDOの提言(2)
コロナ禍の接客サービス、オンライン化の先の競争が始まった

VR空間での展示即売会の例(HIKKY提供)

接客サービスはコロナ禍で最も影響を受けた分野だ。いわゆる「3密」を避けるため、店舗に人を集めることが難しくなった。教育やスポーツ、エンターテインメントなどでは、動画配信やビデオ会議などのツールを導入してサービスのオンライン化が進んでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(NEDO―TSC)は、VR(仮想現実)技術や触覚再現技術などを用いて、よりリアリティーを高めるイノベーションが必要だと指摘する。そしてロボットなど現実世界でのサービスとの融合を掲げる。

「オンライン化はデジタル変革(DX)の手段の一つ。オンライン化だけではイノベーションとはいえない」とNEDO―TSCの伊藤智デジタルイノベーションユニット長は指摘する。例えばコロナ禍でスポーツジムに通いにくくなった。そこで動画配信やビデオ会議ツールでトレーニングを指導する「宅トレ」が広がった。コロナ禍の制約下では需要を満たしたが、サービスの質は低下した。ヨガで脚を上げる高さや角度は、講習生の身体に触れて指導した方が伝わりやすい。触力覚の伝送など、体験のリアリティーをより高める技術が求められる。

またコロナ禍では商談の機会減を補うために、VR展示会が始まった。映像やコンテンツは共有できるが、複雑な機構や摩擦、質感の再現が難しい。紋川亮主任研究員は「現在は3Dスキャンしても物体の表面しか捉えられていない。表面情報から中身を推定し再現する技術が重要になる」と指摘する。3Dプリンターで各自の手元に商品のモックアップを送るなど、VRを補う仕組みが求められる。

重要なのは現実とオンラインを組み合わせて、より付加価値の高い体験を提供することだ。サービス業はコロナ禍の緊急対応としてオンライン化を進めたが、早くもその先での競争が始まっている。数年先を見据えてサービスモデルをデザインし直し、投資していくことが求められる。

日刊工業新聞2020年8月6日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
オンラインサービスは勝ち筋がだいぶ変わってしまいました。ビデオ会議ツールは米巨大ITの資本力で大規模に無償提供され、焼き畑の火が付きました。リアルタイムの音声認識や翻訳は有償無償で載ってくると思います。ホワイトボードも動画編集もいいツールがあります。オープンソースを駆使して柔軟な働き方が広がっています。無料のツールとプラットフォーマーたちのシェア争いを横目で見ながら、自分たちのサービスモデルを組み立てる。テックベンチャーでも悩むようなことを接客サービス業の人たちがやっていくことになります。

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