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「ティア3」の課題まで洗い出すトヨタの執念、コロナ禍にも動じないサプライチェーンの強さを見た!

「ティア3」の課題まで洗い出すトヨタの執念、コロナ禍にも動じないサプライチェーンの強さを見た!

豊田章男社長(トヨタ公式サイトより)

販売上積み 回復基調

トヨタ自動車が底力を示している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年4―6月期決算は自動車各社が苦戦する中で、営業黒字を確保した。21年3月期の販売台数見通しを期初公表値から上積みするなど、販売も回復基調だ。収益基盤を支える一因に強固なサプライチェーン(部品供給網)がある。コロナ禍でもサプライヤーなどと協力し、難局を乗り切る考えだ。(名古屋編集委員・長塚崇寛、名古屋・政年佐貴恵、同・山岸渉)

主要地域で明暗 中国好調、業績押し上げ

トヨタの4―6月期は、営業損益でみて為替変動影響で750億円、販売減で8100億円のマイナス要因があったものの、原価改善で100億円、残業代などの経費低減で750億円、金利のスワップ評価益で734億円を積み上げ、黒字を確保した。

販売減により、北米が977億円、欧州が197億円の営業赤字に転落した。日本は新型車の好調など明るい材料もあり、782億円の営業黒字を確保したが、前年同期比81・8%減だった。

一方、主要地域で健闘したのが中国。販売台数は同14・3%増の48万2000台、事業利益は同44・1%増の970億円と大幅増益を達成した。4―6月期の好調を受け、1―12月期の販売台数は前期比9%増の176万台を計画する。

原価低減活動でも効果を上げた。「この10年ほどでサプライヤーや販売店と地道に続けてきた体質強化の成果が決算に表れた」(同社)。100億円の原価改善のうち、約50億円を設計面の改善、約50億円を工場での改善活動で創出した。

さまざまな改善活動を進めており「改善効果は期末に向けて徐々に出てくる」(同)。通期ではさらなる利益の積み上げにも期待がかかる。

米・中需要けん引 感染拡大、先行きに不安

販売は回復が鮮明だ。新型コロナの影響で自動車需要は低迷したが、足元では中国での販売が好調に推移するほか、北米なども回復基調を見せている。新型コロナ感染再拡大の動きは注視しつつも、今後も販売の回復は継続すると見通す。4―6月期の世界販売は前年同期比31%減となったものの、5月時点で想定していた同4割減の水準に比べて販売の回復が速まっている。

特にけん引する地域が中国だ。新型コロナの影響からいち早く抜け出し、3月末には全土で販売店の営業を再開した。足元では7月の販売が前年同月比19・1%増の16万5600台を記録。1―7月の累計は前年同期比1・1%増の91万8700台とプラスに転換した。オンラインイベントを活用した訴求などが寄与している。

中国だけではなく、北米も4月を底に回復基調だ。個人客の需要が戻りつつあると分析。7月の米国販売は前年同月比19・0%減の16万9484台となったが、減少幅は縮小傾向だ。

国内も日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽協)の統計によると、トヨタの7月販売は前年同月比16・1%減の12万4934台。6月統計と比べて下げ幅が減り回復傾向にある。スポーツ多目的車(SUV)「RAV4」などの販売が好調で、6月に発売したSUV「ハリアー」は発売1カ月で当初計画の14倍超を受注した。

一方、足元では新型コロナの感染が再び広がっており、予断を許さない状況は続く。ただトヨタは引き続き状況を注視しつつも、今後も回復傾向にあると見ており、引き続き年末から21年初めにかけて前年並みに戻ると予測する。

サプライヤーからは歓迎の声が聞かれる。需要の戻りなどを受け8月のトヨタの国内工場の稼働は年初計画の水準にほぼ達する見通しだ。取引の多い部品メーカー幹部は「新型コロナがどうなるかが不安な中で、トヨタが通期見通しを出したり、国内工場の稼働が回復したりしているのはありがたい」と話す。

トヨタは生産の回復が進む(米国インディアナ州の完成車工場)

サプライヤーと歩調 データ連携、供給網維持

収益基盤を支える要素の一つが、強固なサプライチェーンだ。新型コロナの感染拡大で一時、全世界の工場が稼働停止に追い込まれたものの、部品調達に起因する生産停止は東南アジアの一部部品を除いてほぼなかった。東日本大震災を契機に策定した事業継続計画(BCP)が機能し、代替生産の迅速な立ち上げなど、サプライチェーンの寸断を未然に防いだ格好となった。

複雑に張りめぐらせた供給網を維持できた背景には、自社構築したサプライチェーンの情報システム「レスキュー」がある。同システムは国内工場で生産する車両に必要な部品・部材の品目数や、海外を含めた部品メーカーの情報を管理するもの。足元で数十万件のデータを保有する。

事故や災害の発生時に部品生産の流れを早急に把握でき、代替生産時もリードタイムの大幅な短縮が可能。供給網の状況を把握する際も以前は2週間程度かかっていたが、レスキューの導入により今回は半日程度で済んだという。

コロナ禍の影響を受けるサプライヤーの支援にも迅速に着手した。コロナの感染が拡大した時点で、ウェブを介して部品各社の課題や困りごとの聴取を開始。直接取引のある1次取引先(ティア1)に加え、1万社を超える2次取引先(ティア2)以降にもコンタクトを取っている。

資金繰りの相談のみならず、生産性改善や物流費の調整、医療用フェースガードの生産委託などを実施。ある部品メーカー幹部は「トヨタは2次以降のサプライヤーへの配慮を欠かさない」と強調する。

トヨタは中小サプライヤーの支援にも力を入れる

その上で、将来の成長に向けた手綱は緩めない考え。コロナ禍においても、サプライヤーとの連携を密にした原価改善活動を積極的に推進していく。19年4月にはティア1の調達担当がトヨタに出向し、ティア2やティア3が抱える課題の洗い出しに着手。トヨタ生産方式(TPS)による生産改善に加え、事業承継や人手不足といった課題の側面支援を手厚くしている。サプライヤーとの共存共栄という不文律をテコに、未曽有の難局を乗り越える構えだ。

【関連記事】コロナ禍でのサプライチェーン、国際輸送の最適解とは?
日刊工業新聞2020年8月7日

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