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“ポスト・リチウムイオン電池”の足音、「エネルギー密度」競う

“ポスト・リチウムイオン電池”の足音、「エネルギー密度」競う

ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏

リチウムイオン(Li―ion)二次電池の後継電池の開発が活発だ。2019年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が、Li―ion二次電池の基本概念を確立して30年余が過ぎた。二次電池は作動電圧やエネルギー密度が高いほど、小型でも大量の電力を蓄えて放出できる。これらの電池性能や汎用性に優れるLi―ion二次電池は、携帯端末から人工衛星まで、さまざまな用途で用いられるようになった。

しかし、Li―ion二次電池の性能の向上余地にも限界が見えてきた。安全性の向上では、有機電解液の代わりに固体電解質を使うLi―ion二次電池が製品化されているが、電気自動車(EV)の1充電当たりの航続距離の延長には、Li―ion二次電池を上回るエネルギー密度の次世代電池が必要だ。

現時点における次世代電池の開発の特徴は、同じ重量や体積のLi―ion二次電池よりもエネルギー密度が高く、多くの電気量を放出する活物質(主に正負極材料)の実用化を重視している点にある。

例えば、正極が硫黄、負極がリチウムのリチウム硫黄電池は、正極にリチウム遷移金属酸化物、負極に炭素を用いるLi―ion二次電池の数倍のエネルギー密度を持つ。長寿命化などの課題はあるが、すでに国内外の電池メーカーが実用化に着手している。

リチウムや亜鉛などの金属を負極に用い、正極側の酸素との化学反応で充放電を行う金属空気電池も、理論上のエネルギー密度はLi―ion二次電池の数十倍になる。理論エネルギー密度が最も高いリチウム空気電池の実用化は40年頃とみられていたが、人工知能(AI)を活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)によって前倒しになる可能性が出てきた。

リチウム硫黄電池や金属空気電池以外にも、電解質中の陰イオンが多くの電子を効率的に運び、エネルギー密度を高めるフッ化物イオン電池など、次世代電池の候補は多い。次世代電池の多様性は、ニッチ分野の電池の開発や生産を請け負う電池ベンチャーの勃興といった変化を電池業界にもたらすだろう。

EV用電池に求められる性能水準がLi―ion二次電池の性能向上の限界を超えるのは、30年前後であろう。遠からず訪れる「ポストLi―ion二次電池時代」の有望企業の動向に注目したい。

(文=野村リサーチ・アンド・アドバイザリー 航空宇宙/新素材・テクノロジーセクター 前田俊明)
日刊工業新聞2020年8月5日

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