手術ロボ大競争へ、特許満了迫る王者・ダヴィンチに対し日本勢は?
競争軸はデータ活用に
次世代の手術支援ロボットをめぐり、世界と日本で開発競争が繰り広げられている。患者への負担が少ない手術を実現するロボットの機能そのものから、デジタル化によるデータ活用へと競争軸が移行。ロボットから吸い上げたデータを基に多様なサービスを創出し、患者への治療や病院の運用に役立てる。データ活用の巧拙が競争力を左右し、米国企業の手術支援ロボット「ダヴィンチ」が独占する市場の秩序を変える可能性がある。
米インテュイティブ・サージカルは米国で最新モデル「ダヴィンチSP」の出荷を始めた。泌尿器手術用として主力機種「Xi」とその廉価版「X」を補完する。腹部に開けた一つの穴から手術器具を体内に挿入、複雑な手術が行える。手術器具とカメラが1本の管から出てくる構造で、体の外部と内部で器具を自在に操作。特に課題だった体外でのアーム同士の干渉による手術操作の中断を減らせる。
機種開発と並行してデジタル化への取り組みを加速。遠隔でロボットの稼働状況を確認し、即時の対応が可能だ。さらにセンサーを用いてデータを収集・分析し、医師や病院に有益な情報を提供している。例えばアームや鉗子、ペイシェントカートなどシステムの設定に関するデータを分析することでペイシェントカートの角度やアームの位置を計測、自動で最適な状態にセットできる。またパーツの稼働状況から部品の交換時期を判断し、迅速に交換できる。
日本勢ではシスメックスと川崎重工業の共同出資会社、メディカロイド(神戸市中央区)が2019年度に第1弾のロボットを発売する予定だ。コンパクト化とデジタル化がキーワード。アーム同士の干渉を抑え複雑な手術を実現したり、ロボットの稼働状況を遠隔で監視し、オンラインでサポートしたりするとみられる。18年秋に独内視鏡大手、カールストルツと業務提携し、手術に必要な画像システムや外科用デバイスの供給体制を整えた。
リバーフィールド(東京都新宿区)は日本人の体格に合ったコンパクト設計で、手術室の間を行き来できる可搬型ロボットを開発する。ダヴィンチを高級車とすれば“軽自動車”との位置付け。臓器の感触を術者が感じ取れる技術を搭載し、臓器の損傷リスクを抑えられたりする。20年に臨床研究を始める。
その上で大量のデータを取れるプラットフォーム(基盤)として「画像」「力覚」「位置情報」の3点セットでデータを集め、可視化や学習に使えるようにする。蓄積したデータを活用できる企業との連携を模索し、具体化する考えだ。
A―Traction(エートラクション、千葉県柏市)が開発中のロボットは、術者をアシストする助手の役割を担う。ロボットが鉗子や内視鏡を操作し、術者自身で制御できる。ダヴィンチと同様、腹腔鏡・胸腔鏡手術を支援するが、着眼点が異なる。20年度の薬事申請を目指す。
一方、ダヴィンチと競合しない手術領域でも開発が進む。米メドトロニックは脊椎手術支援ロボット「メイザーX」を手がけるイスラエルのメイザー・ロボティクスを買収。ロボットによるガイダンスシステムを組み込み手技効率の向上につなげる。情報通信技術(ICT)を活用したサービス開発を進め、20年の発売を予定する。
ダヴィンチの対抗馬と目されるのが米グーグルだ。米ジョンソン・エンド・ジョンソンと米ヴァーブ・サージカルを設立した。クラウドベースの“デジタル手術”を標榜(ぼう)し、試作モデルが完成。その基盤にはロボット支援や視覚、計装、データ解析、コネクティビティーなど五つの技術を搭載し、世界で高度な手術へのアクセスを容易にするという。20年をめどに製品化。AIの搭載を含め、どの段階から市場に投入するかを各社とも注視する。
手術支援ロボット市場は黎明(れいめい)期。医療機器メーカーやIT企業、ベンチャーの相次ぐ参入とデジタル技術の進展とともに市場の覇権争いが激化しそうだ。
(文=清水耕一郎)
手術から得られるデータは膨大で、それを取得する端末がロボットとなる。ロボットの稼働状況や患者の画像データ、生体データを可視化し、AI(人工知能)で分析。過去のデータから次の動きを予測し、リアルタイムで医師に指南したりする。さらにロボット操作のトレーニングやサービス、製品開発につなげ、患者や医師に還元する―。そんな将来像を見据え、各社はロボットの機能強化とともに、デジタル化への動きを強めている。
ダヴィンチの最新モデル
米インテュイティブ・サージカルは米国で最新モデル「ダヴィンチSP」の出荷を始めた。泌尿器手術用として主力機種「Xi」とその廉価版「X」を補完する。腹部に開けた一つの穴から手術器具を体内に挿入、複雑な手術が行える。手術器具とカメラが1本の管から出てくる構造で、体の外部と内部で器具を自在に操作。特に課題だった体外でのアーム同士の干渉による手術操作の中断を減らせる。
機種開発と並行してデジタル化への取り組みを加速。遠隔でロボットの稼働状況を確認し、即時の対応が可能だ。さらにセンサーを用いてデータを収集・分析し、医師や病院に有益な情報を提供している。例えばアームや鉗子、ペイシェントカートなどシステムの設定に関するデータを分析することでペイシェントカートの角度やアームの位置を計測、自動で最適な状態にセットできる。またパーツの稼働状況から部品の交換時期を判断し、迅速に交換できる。
日本勢も新モデル続々
日本勢ではシスメックスと川崎重工業の共同出資会社、メディカロイド(神戸市中央区)が2019年度に第1弾のロボットを発売する予定だ。コンパクト化とデジタル化がキーワード。アーム同士の干渉を抑え複雑な手術を実現したり、ロボットの稼働状況を遠隔で監視し、オンラインでサポートしたりするとみられる。18年秋に独内視鏡大手、カールストルツと業務提携し、手術に必要な画像システムや外科用デバイスの供給体制を整えた。
リバーフィールド(東京都新宿区)は日本人の体格に合ったコンパクト設計で、手術室の間を行き来できる可搬型ロボットを開発する。ダヴィンチを高級車とすれば“軽自動車”との位置付け。臓器の感触を術者が感じ取れる技術を搭載し、臓器の損傷リスクを抑えられたりする。20年に臨床研究を始める。
その上で大量のデータを取れるプラットフォーム(基盤)として「画像」「力覚」「位置情報」の3点セットでデータを集め、可視化や学習に使えるようにする。蓄積したデータを活用できる企業との連携を模索し、具体化する考えだ。
A―Traction(エートラクション、千葉県柏市)が開発中のロボットは、術者をアシストする助手の役割を担う。ロボットが鉗子や内視鏡を操作し、術者自身で制御できる。ダヴィンチと同様、腹腔鏡・胸腔鏡手術を支援するが、着眼点が異なる。20年度の薬事申請を目指す。
一方、ダヴィンチと競合しない手術領域でも開発が進む。米メドトロニックは脊椎手術支援ロボット「メイザーX」を手がけるイスラエルのメイザー・ロボティクスを買収。ロボットによるガイダンスシステムを組み込み手技効率の向上につなげる。情報通信技術(ICT)を活用したサービス開発を進め、20年の発売を予定する。
対抗馬はグーグル
ダヴィンチの対抗馬と目されるのが米グーグルだ。米ジョンソン・エンド・ジョンソンと米ヴァーブ・サージカルを設立した。クラウドベースの“デジタル手術”を標榜(ぼう)し、試作モデルが完成。その基盤にはロボット支援や視覚、計装、データ解析、コネクティビティーなど五つの技術を搭載し、世界で高度な手術へのアクセスを容易にするという。20年をめどに製品化。AIの搭載を含め、どの段階から市場に投入するかを各社とも注視する。
手術支援ロボット市場は黎明(れいめい)期。医療機器メーカーやIT企業、ベンチャーの相次ぐ参入とデジタル技術の進展とともに市場の覇権争いが激化しそうだ。
(文=清水耕一郎)
日刊工業新聞2019年1月8日掲載