2年後も元の水準に戻らない自動車需要、底力を見せるトヨタに追走できるのはどこ?

競争激化、強み磨く差別化カギに

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「人はコストではなく、改善の源」と話す豊田章男社長(同社公式フェイスブックページより)

新型コロナウイルス感染拡大の影響は乗用車メーカー7社の2020年4―6月期の業績に深刻な打撃を与えた。世界の自動車需要は同期を底に徐々に回復する見込みだが「コロナ以前の市況に戻るには時間がかかる」(車メーカー幹部)との指摘もある。今後は市場縮小に伴う競争激化が予想され、強みを磨き違いを作り出せるかが問われそうだ。(西沢亮)

20年4―6月期の7社合計の世界販売台数は前年同期比約4割減少した。合計の世界生産台数は同約6割減となり、需要の急減と共に各国での生産調整も収益を圧迫した。

こうした厳しい環境で1500億円を超える当期黒字(国際会計基準)を確保したのがトヨタ自動車だ。20年4―6月期の営業利益は同98・1%減の139億円。コロナ禍による販売減で8100億円の大幅減益となったが、諸経費の低減などで黒字を実現した。

中でも8000億円超のコロナ影響を吸収した要因を同社は「これまで積み重ねた地道な体質強化の成果」と分析する。例えば高岡工場(愛知県豊田市)では、塗装工程で使う溶剤の粘度を下げて容器のパックから出しやすくし、その容器を一晩つるして最後まで使い切ることで、車両1台当たり0・025円の改善を実現した。こうした細かい積み重ねにより、同ラインだけで昨年と比べ1台当たり6000円以上もの改善効果を上げた。

一方、設計変更といったサプライヤーなどと取り組む原価改善は、営業利益段階で前年同期比約3割減の100億円に留め、仕入れ先にも配慮する。豊田章男社長が5月の会見で「人はコストではなく、改善の源であり、モノづくりを成長発展させる原動力」とした人材へのこだわりがにじむ決算内容となった。車業界が専門のアナリストは「厳しい減産局面でも収益を確保し、安定的に将来投資を継続できる強みは大きい」と評価する。

スズキも20年4―6月期に当期黒字を確保。世界販売は前年同期比64・3%減と7社で最大の下げ幅となり、主要市場のインドでは同8割を超える減少となった。営業利益は同97・9%減の12億円。販売減の影響で1319億円の減益となる中、諸経費の削減で525億円の増益を確保して収益力を示した。

ホンダは20年4―6月期の当期損益(国際会計基準)が808億円の赤字(前年同期は1723億円の黒字)に転落した。しかし2輪事業はインド市場の低迷などで世界販売台数が同62・3%減と急減する中、営業利益は同84・0%減の112億円と黒字を確保した。4輪事業の1958億円の営業赤字は補えなかったが、竹内弘平専務は収益性の高い2輪事業で7月以降にコロナ影響が縮小してくれば「業績を引っ張っていく」とみる。

21年3月期連結業績予想は、インドでの新型コロナの感染動向が不透明なため「未定」としたスズキを除き5社が新たに公表した。5月に唯一見通しを示したトヨタは、販売の回復ペースを20年7―9月期が前年同期比約15%減、10―12月期が同約5%減、21年1―3月期が同約5%増と予想。20年4―6月期は同約40%減と想定したが、同31%減にとどまった。各社とも地域差はあるが、期末に向けた回復傾向との見方では一致する。

世界販売、回復に時間

英国調査会社のLMCオートモーティブは20年暦年の世界の新車販売台数を前年比21%減の7107万台と予想。21年は同15%増の8153万台、22年は同8%増の8809万台に回復するが、9000万台を超えていた19年の水準には届かないと予想する。

こうした見通しから、中期では需要の縮小に伴う競争の激化が見込まれ、電動化や自動運転など「CASE」と呼ばれる次世代車の開発負担も重くのしかかる。ただ各社はコロナ禍による厳しい事業局面でも設備や研究開発への投資を継続し、将来の成長を見すえながら、強みを伸ばして生き残りを図る。

日産は中核市場の米国向け新型SUV「ローグ」の生産を始めた

日産自動車は21年3月期に2年連続で6000億円を超える巨額の当期赤字を見込む。業績立て直しに向け工場閉鎖などで固定費削減に取り組み、販売では過度に台数を追わず質の向上を追求。固定費は21年3月期末までに3000億円削減する取り組みを着実に進める。また米国では企業向けなどの「フリート販売」の比率を減らし、1台当たりの売上高を前年と比べ約7万円改善した。

こうした構造改革に取り組む一方、日産のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は「新型車と新技術への投資を続け、持続的な成長を実現する」と強調。中核市場の米国向けでは最量販車種のスポーツ多目的車(SUV)「ローグ」の新型車の生産を6月に開始し、日本では独自のハイブリッドシステム「eパワー」を搭載した小型SUV「キックス」を投入した。キックスは6月末の発売から約1カ月で1万台を超える受注を獲得し、強みを打ち出した戦略が成果を上げる。

SUBARU(スバル)は20年4―6月期の営業損益(国際会計基準)が赤字となったが、岡田稔明専務執行役員は「7―9月期には黒字に転換したい」との考えを示す。回復の根拠となるのが5、6月のシェアが過去最高を更新した米国事業だ。野村証券の桾本将隆リサーチアナリストは同社の北米事業を「高収入・高学歴の顧客が中心で、米国の労働市場が悪化する中でも、相対的に販売の落ち込みが小さい点が魅力」と評価する。

マツダは21年3月期に米国と中国で前期を上回る販売を計画。米国ではこれまで販売店舗を改革し、4月に販売金融をトヨタ系のサービスに変更した。投資の成果などで5、6月は全需を上回る販売を実現。丸本明社長は「こうした活動をグローバルに展開し、少しでも多くの販売を重ねてきたい」と述べる。中国ではホンダが7月に4輪車で過去最高の販売を記録するなど市場が回復。倉石誠司副社長は新車種投入も踏まえ「暦年で前年同等、年度では前年を超える販売を目指したい」と意気込む。

21年3月期に構造改革費用の計上などで3600億円の当期赤字を見込む三菱自動車は、強みの東南アジア市場に経営資源を集中する。東南アジア向け製品を南アジアや南米などにも展開し、「第2の柱を立ち上げる」(加藤隆雄最高経営責任者〈CEO〉)と中長期での成長を見すえる。

日刊工業新聞2020年8月12日

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