5年ぶりの基本計画改定、日本は「宇宙利用大国」になれるのか
今後20年を見据えた10年間の国の宇宙政策の基本方針「宇宙基本計画」が5年ぶりに改定された。宇宙安全保障の確保や災害対策、国際宇宙探査、民間企業の参画などを目標に、具体的に取り組む内容が盛り込まれた。基幹ロケットや人工衛星などの開発や利用を増やし、同計画のキャッチフレーズである「自立した宇宙利用大国」を目指す。(飯田真美子)
人工衛星の役割拡大 AI活用、新たな産業創出
宇宙基本計画によると、人工衛星を使った測位や通信・放送、観測など、経済社会における宇宙システムの役割は大きくなり、依存度は年々増加している。宇宙が“独立”していた時代は終わり、人々の生活に欠かせない存在になっている。安全保障などの重要性が高まる中、人工衛星で情報収集や通信ができる環境が備わるなど、宇宙は重要な役割を果たしている。
日本の宇宙産業は、政府を中心に大学や研究機関、大企業などで研究開発が行われてきた。だが近年では、海外のように日本国内の宇宙ベンチャーの活動も活発化している。
ロケットの打ち上げや人工衛星の活用などに加え、これからは所定の軌道に入った衛星に対して行うサービス(軌道上サービス)や月面の資源開発、高度100キロメートル程度まで上昇して帰還するサブオービタル飛行(弾道飛行)などに宇宙開発が広がると考えられる。
世界の宇宙市場は2040年に約120兆円以上になると予想。その中に参入できることは新しい産業の創出にもつながる。
海外の宇宙開発に目を向けると競争が激化しており、特に中国が急激に発展している。19年には月の裏側に着陸し、22年にも宇宙ステーション「天宮」が完成予定だ。ロケットの打ち上げ回数は18年に世界1位となり、測位衛星の数は50機以上で米国を上回る。内閣府の吉田健一郎参事官は「今の宇宙産業は中国なしでは考えられない。中国の存在を考えつつ、日本の立場や位置付けを考える必要がある」と語る。
技術面では、米国でゲームチェンジが起きると指摘されている。人工衛星の小型化や、複数の人工衛星を打ち上げ連携して運用する「衛星コンステレーション」によって、観測の高頻度化や衛星通信網の構築などが期待される。これらの技術に人工知能(AI)を活用することで、新たなビジネスの創出や発展につながる。
さらに、人工衛星の低コスト化や大量生産の進展など、製造方法が変わる可能性がある。実証実験の機会が増加することで技術が急速に向上し、人工衛星だけでなくロケットなどの製造にも応用されると期待される。
技術面「自立化」重要に 安全保障最優先課題
日本の宇宙関連の技術は世界でトップレベルを誇っている。だが世界の技術発展は早く、そのレベルを維持するには危機的な状況に追い込まれつつある。同計画では、日本が培ってきた宇宙技術の基盤を維持して強化する「自立」を改めて強調している。内閣府宇宙政策委員会の葛西敬之委員長(JR東海名誉会長)は、「宇宙活動を自立化する能力を強化・維持し、安全保障や経済成長、技術革新への貢献を目指す」と意気込みを語る。
測位、通信、情報収集のための宇宙システムの活用や海洋状況把握の重要性が高まる中、システムの整備と能力を向上させ、宇宙安全保障の確保を目指す。特に、位置情報の認識や時刻同期の能力を確保する「準天頂衛星システム」は、持続測位ができる7機体制にするために23年度をめどに3機追加する。能力維持や向上のために後継機の開発に着手する。
災害対策や地球規模の課題解決に向け、気象衛星や温室効果ガス観測技術衛星、地球観測衛星などの打ち上げや後継機の開発などを進める。大規模災害で通信手段が途絶しても、人工衛星経由で災害情報を発信するサービスや被災者情報を収集する安否確認サービスを整備し運用する。
また、19年に打ち上げられ国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した資源探査センサー「HISUI(ヒスイ)」の定常運転を始める。資源探査に加えて、農業や森林など幅広い分野で活用する。
アルテミス計画参加 30年市場規模2.4兆円
惑星探査については、探査技術の向上や地上技術へ派生に向けて取り組むとした。政府は月・火星に有人着陸を目指す米国の国際宇宙探査(アルテミス計画)への参加を表明。
これまで宇宙基本計画は3回改定されてきたが、惑星探査に関する項目が目標として初めて独立した。アルテミス計画では持続的な月面探査の実現を目指しており、参画の機会を活用して日本人宇宙飛行士の活躍の機会の確保を進める。ISSでの有人滞在技術や物資補給などの経験を生かし、月周回有人拠点「ゲートウェー」の建設や運用、実証実験に取り組む。
宇宙での経済成長と技術革新のために宇宙産業の市場規模を30年代早期にも約2兆4000億円に倍増することを目指す。衛星データの利用を拡大し、自動運転やスマート農業などの普及を加速させる。さらに、ベンチャーを含む民間企業での小型ロケットや小型衛星の開発などの取り組みを促進させる。東京大学の中須賀真一教授は「民間が積極的に参入でき、官民が協力できる体制を確立したい」と話す。
宇宙活動を支える産業・科学技術の基盤強化として、人工衛星の輸送手段の確立や宇宙産業の基盤技術の開発などが進められる。大型基幹ロケット「H2A」と「H2B」の後継機「H3」や固体燃料ロケット「イプシロン」の開発が進められている。
また、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測や除去技術を獲得し、新たなデブリなどを発生させないための取り組みを行う。さらに、宇宙で太陽光発電を行う「宇宙太陽光発電」の研究や、電離圏や太陽活動などの宇宙環境の観測や分析、シミュレーション技術の高精度化を進める。米国や中国などに引けを取らない宇宙大国となることを目指す。