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大手電機メーカー出身のスタートアップが挑む、超小型衛星を使った「遠隔探査」ビジネス

大手電機メーカー出身のスタートアップが挑む、超小型衛星を使った「遠隔探査」ビジネス

「多くの人がその恩恵を実感できる宇宙ビジネスを」と語る中村さん

科学雑誌を愛読し、夜ごと星空を見上げながら成長した少年はいま、超小型衛星による遠隔探査(リモートセンシング)技術を通じて世界が直面する課題解決に挑んでいる。

大手電機メーカーで人工衛星開発に携わっていた中村隆洋さんが2017年に設立した「ポーラスター・スペース」。液晶波長可変フィルター(LCTF)カメラによる高精度なスペクトル計測データの取得と、その分析サービスを手がけている。

病変の早期発見や産性向上に

一区画が東京都の面積の5分の1ほどの広さがあるマレーシアのオイルパーム農園。同社が北海道大学など2018年に行った実証実験では、詳細なスペクトルデータを機械学習によって分析したところ、病害に侵された異常な樹木を特定することに成功した。フィリピンのバナナ農園でも同様の実証を実施。「新パナマ病」に感染したバナナがないか、これまでは人間が見回って確認していたが、計測データを用いて異常を早期発見することで感染拡大を防ぐことができる。

マレーシアの広大なオイルパーム農園ではLCTFカメラ搭載ドローンによる計測が行われた(北海道大学との実証試験)

地上から遠く離れたところから、陸上や海上、大気などの現象を捉えるリモートセンシングは一次産業や防災、資源開発など、さまざまな現場が抱える課題を克服する技術として有望視されている。一方で、既存技術の撮影技術は波長数が固定され詳細情報が欠落しているといった理由から、現場が求める活用ニーズに十分に応え切れていない現実もある。

選べる波長帯 超高精度計測が可能に

同社が北海道大学や東北大学グループとともに実用化した技術は、計測対象や目的に応じて波長帯を選択できるところに特徴がある。しかも、撮影したい範囲や求める精度といった用途に応じて、超小型衛星やドローン、あるいは地上データの取得目的であれば機動力のあるスマートフォン一体型分光器といった形で使い分け、シームレスに連携しながら人間の目では分からない、細かな変化を高い精度で識別することが可能だ。こうした技術の多様性や柔軟性により「スペクトル計測の利活用シーンが飛躍的に広がる」。中村さんはこう語る。

機器を使い分けることで目的に応じた多彩なスペクトル計測が可能に

恩恵を実感してこそ

実際、同社のビジネス戦略も、超小型人工衛星による高精度スペクトル・オンデマンド観測の開始目標を2021年以降と定めつつ、その前段階として、手軽に利用できるスマホ分光器の普及やドローン計測による広域計測の実績を積み上げる構えだ。大規模な自然災害が頻発する、日本の防災分野での利用ニーズに応えるため、米マサチューセッツ工科大学発ドローンベンチャーとも提携。復旧支援やエネルギーインフラなどの保安業務への活用も検討されている。一連のビジネスの裏には、こんな思いがある。

「とかく宇宙開発は、ロケットや衛星を打ち上げることに目が向けられがちですが、そこから得られるデータによって暮らしが豊かになった、便利になったと世界中の人が実感できるビジネスを生み出すところに社会的な意義を感じています」。

その信念は、現場に足を運び、フィールドデータを蓄積しながらさまざまなプロジェクトを創出し続ける中村さんにとって、自身の進むべき道筋を示すポーラスター(北極星)なのかもしれない。

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