次期戦闘機「国産主導」は大丈夫なのか。1社単独契約の裏側
防衛省は、2035年に配備を始める次期戦闘機の開発体制を、全体インテグレーションを統括するプライム企業1社へ単独契約方式にすることを決めた。単独契約にすることで、日本主導イメージをより強く打ち出すとともに、将来の機体改修も自由度を保つ狙いがある。ただ、実現には多くの課題が横たわる。戦闘機開発は実際は米英企業などと共同作業になるとみられるが、武器輸出管理規則や第三者非開示の問題をどうするのか。「F2」の時のように、米国が重要軍事技術をブラックボックス化し開示を拒んだ場合、独自開発できるのか。米大統領選挙の行方も含め、まだ目が離せない。
次期戦闘機の開発スケジュールは、全体のインテグレーションを担う機体担当企業を、20年末までに決定。ミッション・アビオニクスやエンジンの担当企業は、機体担当企業の下請けとして参画する形をとる。仮に日本の三菱重工業が機体を統括するプライム企業になった場合、米ロッキード・マーチンや米ボーイングも、三菱重工の下請け企業になる。エンジンに関しては、エンジン単独で完結する開発作業について、防衛省はエンジン担当企業と直接契約する方針だ。
1社との主契約方式にすることで、戦闘機システム全体のインテグレーション強化が期待できる。現在の「F2」では防衛省は機体インテグレーションが三菱重工、エンジンが米ゼネラル・エレクトリック(GE)、レーダーや管制装置は三菱電機などと、部門ごとに担当企業と直接契約する形を採用している。
新世代の次期戦闘機は機体・エンジン・アビオニクス間の高度な連携が不可欠で、途中で不具合が生じても別々の契約だと航空自衛隊のニーズを的確に反映させることが難しいため、シングル・プライム方式になった。航空自衛隊が求める理想の戦闘機イメージの実現に、関係者が一丸となって開発を進められる体制が整う。
次期戦闘機の開発コンセプトで、防衛省は空対空戦闘能力、改修の自由度と拡張性、日米共同対処のためのインターオペラビリティー確保の3点を挙げている。開発に米企業が共同参画することになった場合、問題になるのはインターオペラビリティーの項目だ。
米国には武器輸出管理規則がある。軍事用に設計・改造された品目を武器品目リストで規制し、規制品目を日本が再輸出する場合には米政府の事前承認が必要になる。武器品目リストに載ると技術仕様が非公開になるため、プライム企業や主企業が下請け企業に情報開示できなくなる不便も生じる。1回ごとに米政府の承認や調整作業が必要となり、開発スケジュールが大幅に遅れる恐れが強い。米国の輸出許可は数カ月、輸出許可のライセンスには半年間かかるとの指摘もある。
他目的利用の禁止や派生技術規制の問題もある。戦闘機開発で培った技術を日本側は民間航空機や自動車、半導体などの分野に自由に応用できない。効果が戦闘機市場だけに限定されれば、波及効果も限られる。自民党議員の間では、インターオペラビリティーの適用範囲や品目について、日米両国の間で事前に十分なすり合わせが必要だとの声が多い。
次期戦闘機開発に携わる主企業は日本側は三菱重工業やIHI、川崎重工業、三菱電機、富士通、米国ではロッキード・マーチンやボーイング、ノースロップ・グラマン、英国ではBAEシステムズやロールスロイス、レオナルドなどが見込まれる。
ロッキード・マーチンは空自のステルス戦闘機「F35」や、空戦性能で世界最強とされる「F22」開発企業であり、売り込みも熱心だ。ボーイングも空自主力戦闘機「F15」を開発。ノースロップ・グラマンは電子戦機「E2D」や無人機「グローバルホーク」を開発している。中国軍機やロシア軍機に備える日米共同作戦の場合、米企業のこうした実績は十分にアドバンテージになるだろう。
日本はIHIが開発した推力15トンの「XF9」で米国に肩を並べたとはいうものの、戦闘機の実運用経験がないのが悩みだ。三菱重工も「F1」支援戦闘機や先進技術実証機「X2」の開発実績はあるものの、実運用経験は欧米に大きく劣る。カタログ性能やシミュレーションでは分からない、こうした「実運用経験の差」をどうカバーするのか。
他方で日本主導方式ならば、国内企業が開発した空対艦ミサイルやレーダーなどの新兵器も、容易に搭載できる。米開発の機体だと主要性能はどうしても米空軍や米海軍の要求に沿ったものになるため、空自の要求とはずれが出る場合も生じる。機体改造や設計変更も場合によっては数年の歳月を必要とし、結果として機体価格が大幅にはね上がる。安全な飛行にかかる、メンテナンス維持の問題もある。外国製の機体が、必ずしも安いとは限らない。