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トヨタ国内6000店舗に地殻変動、全車種併売が引き起こす「販売革命」のクラクション

「変化はチャンスにもなる」(章男社長)
トヨタ国内6000店舗に地殻変動、全車種併売が引き起こす「販売革命」のクラクション

販売体制の再編を通じて販売会社に体質強化を促すトヨタ(愛知トヨタ公式ページより)

トヨタ自動車の販売改革が新たなステージに入った。5月から全国のトヨタ販売店で全車種の併売を本格的にスタート。国内市場が縮小均衡の一途をたどるなか、販売体制の再編を通じて販売会社に体質強化を促す。全車種併売で各社の販売戦略の巧拙が鮮明になり、系列同士の競争に拍車がかかることは必至だ。長年の慣習に大なたを振るい、販売の再構築に挑む国内トップグループの動きを追った。

「変化には不安もあるだろうし、変わることは難しい。ただし、変化はチャンスにもなる」。2020年1月、全国の販売店幹部ら約700人が一堂に会した会議の場。豊田章男社長は全車種併売についてこう語った。

これまでトヨタは「トヨタ」「トヨペット」「カローラ」「ネッツ」と、四つの系列ごとに販売車種をすみ分けてきたが、系列店ごとの専売車種をなくし全系列で全車種を販売できるようにした。販社首脳は「全車種併売は本来のあるべき姿だ。これでフェアな戦いができる」と全車種併売に期待を込める。

国内新車市場(軽自動車を除く)は1991年の600万台をピークに漸減傾向が続き、19年は約328万台とおよそ半減した。全車種併売の時期は当初22―25年に設定していたが、最大5年前倒したことからも、トヨタの危機感の大きさがうかがえる。

足元では新型コロナウイルスの感染拡大もあり、需要動向に不透明感が増す。トヨタは国内に6000店舗を構えるが、販売店からは「経営の合理化が進めば、店舗の統廃合が出てくるかもしれない」といった声も漏れる。全車種併売で販売ビジネスの効率化を急ぎ、「(国内事業の維持に必要とされる)年150万台の販売に今後もこだわる」(トヨタ幹部)方針だ。

トヨタ本体にとっても、全車種併売のメリットは大きい。系列ごとに用意していた兄弟車を併売で一本化できるためだ。現在60ほどの車種を約30車種に絞り込み、車両の開発負担を低減。ここで浮いたリソースを自動運転や電動化など次世代技術への投資に充て、激化する開発競争に勝ち残る構えだ。

トヨタの販売網は日産自動車やホンダなどに比べ「地場資本のオーナー企業が多いのが強み」(豊田社長)。その数は275社(19年7月時点)と、トヨタの販売店全体の96%に上る。各社は長年育んできた地域との絆をテコに、宅配サービスや移動支援サービスなど日常の困りごとを解決する生活サービス業に磨きをかける。

“地域密着の新たな店舗活用

トヨタの全車種併売化は、販売店に一段高いレベルの競争環境をもたらす。これまでの強みだった商品による差別化はなくなり、販売店ごとの力の差がむき出しにされる。トヨタのお膝元である愛知県では、競争力強化に向けた動きが活発になっている。

「完全にフェアな競争の時代に入った」。名古屋トヨペットの小栗一朗社長は、変化をこう表現する。1年早く導入したトヨタの直営販売店、トヨタモビリティ東京では、全車種併売の効果は上々だ。顧客からは「全車種から選べるようになった」と評価。販売現場からも「エリアによって得意不得意があったが、解消された」との声が挙がる。

ただし各社の地力が競争力に直結する全車種併売に対し、販売店の危機感は強い。足元では競争力の一つとなりうる“規模”を追う再編の動きが相次いでいる。

愛知トヨタ自動車を抱えるATグループは、23年4月をめどに傘下の4販社の統合を決めた。山口真史社長は「全車種併売がスタートする環境変化の中で、グループとして統合した方がいい」と背景を説明する。またトヨタは愛知県の直営販売店2社を、トヨタカローラ名古屋を抱えるGホールディングスに譲渡した。

もう一つの動きが“地域密着の新たな店舗活用”だ。名古屋トヨペットは、地域住民の交流の場として店舗の会議室やショールームを貸し出す「まちイチ活動」を10年前から開始。トヨタカローラ中京も19年末に新車販売を軸としない店舗「モビリティゲート吹上」を完成。「来るモビリティ社会における情報発信基地」(同社)として、カーシェアやイベント開催、会議室の貸し出しといったサービスを提供する計画だ。各社は店舗の魅力を高めて顧客との接点を増やすと同時に、個性を打ち出してブランド力を構築し囲い込みを狙う。

「(市場が)伸びようが縮もうが、絶対に失ってはいけないのは競争だ」。トヨタの豊田章男社長は全車種併売による市場の活性化を期待する。Gホールディングスへの直営店の譲渡も「トヨタが第三極を作りたかったのでは」(トヨタ系販売店幹部)との見方がある。競争による新サービスの創出や展開の加速も狙いの一つだ。

ただ地場資本をベースとする販売店には小規模な所も多い。調査会社のフォーインの福田将宏日本調査部長は「勝ち負けが鮮明になるのは避けられない。廃れていく所をトヨタがどうサポートして軟着陸させるか」と今後の課題を指摘する。

名古屋トヨペットの小栗社長は、家電販売がメーカー専売店から家電量販店にシフトしたように「自動車でもプロダクト主導ではなく、マーケット主導の流通ビジネスが到来する」と予測する。新時代に向けた各社の挑戦は始まっている。

異業種との複合店舗を競争力強化につなげる動きも(名古屋トヨペットの稲沢店)
日刊工業新聞2020年5月11/12日

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