中国で生産設備の受注回復。工作機械4カ月連続増、ファナックは44%の伸び
コロナ禍で世界経済に逆風が吹き荒れる中にあって、中国での工作機械など生産設備の需要が回復著しい。日本メーカーの中国からの工作機械受注額は6月まで4カ月連続で前月比で増加し、産業用ロボットも増加傾向が続いている。先進国に先駆けて、いち早く新型コロナウイルス感染が収束に向かい、政府のインフラ投資や消費刺激策も奏功した。一方で米中貿易摩擦が再び悪化に転じるなど、先行きを懸念する声も挙がる。
「今後、少し不透明な状況は続くだろうが、世界市場の中で一番元気であることは間違いない」。日本工作機械工業会(日工会)の稲葉善治副会長は、中国市場の現状をこう捉える。日工会がまとめた6月の工作機械受注額のうち、中国向けは前年同月比34・2%増の154億5400万円。最近は前月比で増加が続いていたものの、前年同月比で増加に転じたのは28カ月ぶり。国別で前月比、前年同月比とも増加となった国は中国のみで、他国に比べても回復傾向は際立っている。
売り先で特に大きく伸びた業種は電気・精密で同67・1%増。半導体製造装置関連が好調だった。同21・4%増の自動車や、同7・0%増の一般機械も伸びた。
工作機械メーカーも市況回復を実感している。オークマは中国の受注環境について「かなり良い水準まで戻ってきている」(マーケティング室)という。三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)も足元で大型案件の商談が出ており、「中国での販売活動に注力する」(若林謙一社長)方針だ。
産業用ロボット分野も回復傾向が強まっている。日本ロボット工業会によると、会員企業の4―6月の中国向け輸出額は前年同期比35%増で、2四半期連続の増加となった。
「中国市場は急回復し、好調な状況が続いている」―。国内大手産業用ロボット各社のトップや幹部はこう声をそろえる。第5世代通信(5G)や半導体関連、工場の自動化に関する事業が活発化。特にロボットメーカー各社が手がける半導体の搬送用ロボットなどは受注が好調だ。
ただ喜んでばかりもいられない。産業用ロボットは製造現場での設置やチューニングなど、人手を介するエンジニアリングが重要となる。人の移動が制限されているコロナ禍では設置対応が限定的にならざるを得ない。実際、日本ロボット工業会の小笠原浩会長は「受注の残件がたまったり、後ろ倒しになったりしている」と話す。
また、米国によるファーウェイ制裁など、米中関係の悪化も懸念材料だ。日工会の飯村幸生会長は「技術のデカップリング(分断)が進んでおり、一定の影響が工作機械業にも必ず来る」と指摘する。その上で、「現在の受注回復の流れが継続するかどうかは、数カ月は見る必要がある」と慎重な姿勢を崩さない。「4―6月期を底に受注は徐々に回復する」
ファナックが28日発表した2020年4―6月期連結決算は、中国の受注高が20年1―3月期比44・0%増の355億円になった。工作機械向け数値制御(NC)装置をはじめとする工場自動化(FA)関連やロボット、小型切削加工機など各部門が増加。前年同期比でも60・6%増と伸びた。
同日開いた電話会見で、同社の山口賢治社長は「中国の受注が想定以上に多かった」と述べた。ただ、この伸びについて「新型コロナウイルス感染症の反動で急増した。高い水準が続くとは見ていない」とし、先行きには慎重な姿勢を示した。
中国の受注増などを踏まえ20年4―9月期の連結業績予想を上方修正。営業利益は4月公表時と比べ15億円増の204億円(前年同期は490億円)に修正。売上高、経常、当期利益も予想を引き上げた。新型コロナの影響で見送っていた21年3月期の通期予想も同日開示。営業利益は前期比56・4%減の385億円になる見通し。中国の受注増が落ち着く一方、日本や米州、欧州の回復を想定する。
世界全体で見た場合、足元はロボットなどの設備投資に様子見感があり回復には時間がかかるが山口社長は「第1四半期(4―6月期)を底に受注は徐々に回復する」と語った。
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