ロボットは高次元な仕事へ人を後押ししてくれる
ロボット導入のメリットと言えば、人件費削減や生産性向上が挙げられる。それだけにとどまらず、ロボットの活用は従業員に働きやすい職場を提供して“人手不足倒産”を回避し、イノベーションのチャンスも広げてくれる。持続可能な開発目標(SDGs)のゴール9で掲げられた「持続可能な産業」や「イノベーションの推進」にロボットが貢献する。
茶色やバラ色の製品が、間隔を空けずに搬送装置を流れていく。新潟市南区にあるダイニチ工業の石油ファンヒーター工場だ。夏を迎えても生産の手を緩めていない。冬に売れそうな製品を「作りだめ」しているのだ。
在庫を抑えるため販売実績に連動させて生産量を増減させる企業が多い。ダイニチ工業は毎月の生産台数を一定にしている。作りだめのおかげで石油ファンヒーターが最も売れる冬場に長時間労働が連続する無理な勤務体制をとらずに済んでいる。普通は「在庫=悪」とみられがちだが、平準化した生産だと従業員は働きやすい。協力会社も同じで、1年を通して安定した利益を見込める。
ロボットも従業員への思いから導入してきた。同社の海保雅裕取締役は「合理化に加え、きつい作業を優先してロボット化してきた」と語る。その一つがビス締めだ。2018年1月までに一部を除く主力製品のビス締めを自動化した。
石油ファンヒーター1台に32本のビスが使われている。手作業の時代、従業員は1日数千回もビス締めをしていた。独自に「ビス止め検定」を創設するほど必要な作業だが、腕への負担が大きく自動化に踏み切った。
灯油タンクを成形するプレス機への材料セットも、同じ作業の繰り返しで身体に負荷がかかっており、17年度にロボットへ切り替えた。完成品を箱に入れる工程にもロボットを採用した。
繰り返しの作業を担当していた従業員は燃料電池などの新分野に配置した。「単純で体に負担がかかる作業から、現在は工程の多い作業を担ってもらっている」(海保取締役)という。最近10年の離職率は平均1・1%と非常に低く、従業員の満足度も高い。
人材不足は製造業にとって深刻化な問題となっている。身体への負担が大きい作業をロボットに担わせ、従業員が定着すれば経営は長続きする。単純作業をロボットに任せ、創造性が求められる部署で働く人が増えれば、イノベーションも発揮しやすくなる。
ロボット導入を支援するシステムインテグレーターも、人件費削減や生産性向上以外の効果に着目する。高丸工業(兵庫県西宮市)の高丸正社長は「目先の生産効率だけ求めても中小企業のロボット導入は成立しない」と力説する。ロボット導入の効果として作業が記録されることも利点という。データが継承されるので、経営がより持続可能になる。
同社は西宮市のロボット講習拠点の収容人数を従来比1・5倍の54人に拡張し、東京都大田区の講習拠点もロボットを増設した。年間1000人以上が受講するほど、中小企業のロボット導入ニーズは高いという。
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