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利用者急減のバス業界、「withコロナ」時代の生きる道はどこだ?

利用者急減のバス業界、「withコロナ」時代の生きる道はどこだ?

東都観光バスが実演した消毒作業。拭き掃除では一方向でするように注意する

新型コロナウイルス感染症の拡大により利用者が急減したバス業界。特に貸し切りバス(観光バス)事業者は観光需要が蒸発して逆風にさらされる。そんな中、車両メーカーも協力して「ウィズコロナ」に対応した手だてを講じていく動きも出てきた。業界では感染予防のガイドラインも策定して、来るべき需要回復期に向けた準備を進めている。車両の換気や消毒作業などの対策により、安心して乗車できると利用者への訴えを強める。(取材・日下宗大)

車両メーカーも協力

「バス事業者の状況について、しっかりコンタクトを取り、どう協力できるかトラック以上に考える必要がある」。日野自動車の下義生社長はこう強調する。同社は2021年3月期の国内バス市場が大型観光バスを中心に通年で半減すると予想する。

厳しい見通しだが、観光需要の回復に向けてバス事業者を後押しすることは車両メーカーにとっても大事だ。各社は乗客や乗務員が新型コロナ感染の不安払拭(ふっしょく)につながる取り組みを進めている。

バス車内の感染予防で重要なのは換気、飛沫(ひまつ)防止、消毒の大きく三つが挙げられる。

あまり一般的に知られていないのがバスの高い換気性能だ。貸し切りバスでは窓を閉めた状態でも室内空調の外気導入モードを使うことにより約5分で車内換気が可能。密閉状態を生み出さない。

三菱ふそうトラック・バスが公開した車両換気システムの実験映像

メーカー各社は換気の仕組みを分かりやすく解説した図を作成している。営業スタッフがバス事業者へ説明に出向いたり、ホームページに掲載したりしている。三菱ふそうトラック・バスは、煙の充満した車内が換気で晴れていく実験映像をインターネットで公開。バス業界の内外に向けた情報発信に力を入れる。

飛沫防止では運転席と乗客席の間に設置する透明な仕切りカーテンといった商品も登場した。バス製造を手がけるジェイ・バス(石川県小松市)が路線バス向けに考案し、同社に折半出資する日野自といすゞ自動車が販売する。三菱ふそうも路線バスや貸し切りバス向けに運転席や乗客席に後付け可能な仕切りの開発を検討中だ。

いすゞ自動車と日野自動車から発売された飛沫感染防止の透明な仕切り

いすゞは今後、仕切りの追加設置のほか、換気性能のさらなる向上を図っていく。手のアルコール消毒スプレーなど除菌・殺菌アイテムの車載展開も検討する。

業界でガイドライン

政府による都道府県をまたいだ移動の自粛要請が解除になった19日。業界団体が国土交通省と連携して、貸し切りバスの感染予防ガイドラインを策定した。

従来も路線バスを含めたバス全体のガイドラインはあったが、「貸し切りバスの実態とは合わない」という事業者の声もあった。路線バスとは車内の構造が違う上、ツアーを企画する旅行会社との感染予防や感染者が出た場合の調整も不可欠だからだ。

今回の貸し切りバス向けガイドラインはバス事業者や旅行会社の役割、車内消毒や清掃の方法などを定めた。乗客と向き合い車内アナウンスをしてきたガイドも原則は車両前方を向いて行う。乗客にはマスク着用の協力やカラオケの禁止などを求める。

貸し切りバスを運行する東都観光バス(東京都豊島区)では車庫に戻るたびに車内消毒を実施する。チェックリストを作成し、作業漏れを防ぐ。平常時と比べて作業時間は倍の40分だという。ただ新型コロナと共生するウィズコロナの局面で需要回復の前提は感染予防の徹底だ。「ガイドラインを守り、必要なことをやる」と宮本克彦社長は力を込める。

「GoToキャンペーン」で反転攻勢

「8月までの予約状況は厳しい」。ある貸し切りバス事業者の関係者がこぼすように、新型コロナによる観光需要の低迷が続く。国内市場を潤してきた訪日外国人(インバウンド)数は、日本政府観光局(JNTO)の公表した5月実績(推計値)で前年同月比99・9%減の1700人と8カ月連続で前年同月を下回った。観光庁がまとめた日本人の国内旅行消費額(速報値)も1―3月期は前年同期比20・5%減の3兆3473億円だった。

日本バス協会が4月末に実施した貸し切りバス事業者へのアンケートは厳しい結果だった。運送収入が前年より7割以上減少すると答えた事業者は2月時点は2%。しかし3月は約8割、緊急事態宣言が発令された4月以降は約9割まで急増した。6月のバス実働率は前年同月比約9割減の5・9%を見込む。「事業者でも貸し切りだけか、路線だけか、どちらも手がけているか。それで経営体力も変わってくる」(前述とは別のバス事業者の営業担当)。

インバウンド需要の復調は当面見込めないものの、バス事業者からは8月からの政府の国内観光需要喚起策「GoToトラベルキャンペーン」への期待が高まっている。これからは観光需要の回復段階で消費者をどれだけバス利用に呼び込めるかが勝負となる。これがバス事業者の反転攻勢を占う最初の試金石になる。

インタビュー/日本バス協会理事長・石指雅啓氏 利用者の安心第一

日本バス協会の石指雅啓理事長にバス事業者の現状と今後を聞いた。

石指氏

―バス利用者をどう呼び戻しますか。

「車内の十分な換気性能をアピールすることが大事だ。路線バスも停車場でのドアの開閉により空気を入れ替えている。ガイドラインは利用者の安心につながるように必要に応じて見直す」

―車両メーカーへの要望は。

「やはり期待するのは一般の方にも分かりやすい換気性能のアピール。乗客から抗菌シートといった要望があれば、その対応もしてほしい。ウィズコロナと言われる中、感染予防に役立つような資機材や装置の要望は高まると思う」

―これからの需要回復や業界の見通しについては。

「『GoToキャンペーン』への期待がある。各観光地が需要を作り出し、それに合わせて貸し切りバスも一緒に無事回復するようにしたい。一方、路線バス需要は外出自粛が解け、大部分は戻ってくると思う。ただ課題はリモートワーク、テレワーク、在宅の動きがとりわけ路線バスにどう影響を与えるかだ。それに懸念を示すバス事業者もいる。ビジネスモデルを変える必要があるかもしれない」

日刊工業新聞2020年6月29日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
観光バスの車内の様子も変わっていきそうだ。カラオケは原則禁止で、会話や飲食も極力控えるように求められる。特に団体旅行は目的地までの移動の楽しみが多分に含まれる。感染予防策の徹底と合わせて、「ウィズコロナ」時代に合った旅行体験のかたちも模索が続く。

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