「観光」で交通空白地帯を埋める!多様化する移動ニーズが新ビジネス生む

ドコモはAI活用で「オンデマンド型乗合交通」

WILLER公式ページより
 さまざまな移動手段をITやAI(人工知能)で高度化し、統合したサービスとして提供するMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)は、観光や商業などの地域経済と組み合わせることで可能性が広がる。「地域経済」×「移動」を軸に繰り広げられる各社の戦略からは、MaaSに対する期待の大きさがうかがえる。

海外での商用化実績、日本に生かす


 今年7月。摩周湖をはじめとする北海道東部地域の人気観光スポットを、多様な移動手段を駆使して周遊できる交通パスが登場する。

 高速バス運行のWILLER(ウィラー)が独自の統合型MaaSとしてスタートするもので、鉄道や観光バスなどの公共交通を利用できるフリーパスをメインに、オプションでシェアバスやパーソナルモビリティーなどの「交通」が選択できるほか、カヌーや観光船を用いた「アクティビティ」も選択できるのが特徴だ。

 公共交通ではたどり着けない観光スポットはシェアバスで訪れ、大自然を満喫するには超小型モビリティーで自由自在に疾走する―。こんなイメージだ。

 「日本には、複数の観光スポットを楽しみながら周遊できる交通サービスがない」。ウィラーの村瀬茂高社長は現状をこう指摘した上で、「交通空白地帯を埋める。それが僕らが目指すMaaS」と語る。

 実はウィラーは海外市場でのMaaS商用化で先行している。今月からは、シンガポールで自動運転のオンデマンドバスの運行、ベトナムでは現地の合弁相手と日本の安全技術を搭載した観光客向け専用車両の運行をそれぞれ開始する。

 同じくベトナムではタクシー配車アプリやライドヘイリングのサービスにも乗り出す予定で、車両の提供から運用管理まで手がける。

 このほか台湾ではラストワンマイルのオンデマンドバスの運行を計画するほか、マレーシアやインドネシア、ミャンマーでも現地企業との提携戦略を進めている。

 各国で蓄積したノウハウを他地域に、水平展開するアジア版MaaSとも言えるウィラーのビジネスモデルは、プラットフォームこそ、各国共通だが、地域の実情に合わせた新たな交通サービスを投入するところに独自性がある。日本におけるサービス第一弾となるのが前述の北海道で展開する交通パスである。
将来戦略を語るウィラーの村瀬社長

広がる可能性、大手も参入


 ベンチャーやスタートアップが独自の技術やビジネスモデルで存在感を発揮するMaaS市場だが、ここへきて資本力のある大手企業も商機を求め参入が相次ぐ。

 クルーズ船寄港地で、外国人乗客などを対象に、AIを活用したデマンド型の乗り合いタクシーを用いた実証実験などを展開してきたJTB。これらノウハウを生かし今年3月、「観光型MaaS」への参入を表明した。中心となるのは、駅や観光拠点からそれぞれの目的地までの「ラストワンマイル」の移動である。

 同社は今後、「クルーズ型MaaS」や大型イベントなどの開催期間の一時的な交通課題に対応する「イベント型MaaS」など多彩なMaaSアプローチを通じて地域の課題や消費喚起に取り組む狙いだ。

通信のノウハウでラストワンマイルに挑む


 移動通信事業で培ったノウハウを生かし、MaaSに取り組むNTTドコモ。中でも「ラストワンマイル」「ファーストワンマイル」における利便性向上を最優先課題と位置づけ、2015年度から技術確立とビジネス化の検討を進めている。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で2018年末に横浜市で行った実証実験は、移動の需要と供給をAIによって最適化する生産性の高い新たな移動手段の実現と、移動とサービスの組み合わせによる新たなビジネス創出を目指す試みだ。

 ここで用いられたのがAIを活用した「オンデマンド型乗合交通」。乗車予約の形で顕在化した移動需要にとどまらず、携帯電話ネットワークの仕組みを通じて得られる人数分布の変化を学習したAIが「未来の移動需要」を見える化。移動手段を効果的に供給できる。期間中は利用者が増え続け、2カ月あまりで約3万4000人、1日あたり900人を超える輸送を実現した。

 今回の取り組みでは、交通のみにとどまらず、エリア内の500を超える商業施設が施設情報や集客のための特典も発信する新たな手法も実証した。

 NTTドコモは商業施設に集客サポート用ツールを提供。施設担当者はエリア内の現在および将来の性別や世代別の人数分布データを参考に、施設情報やクーポンをリアルタイムで来場者に発信する仕組みを構築した。同社では、一連の取り組みを通じて交通と商業施設の連携を通じた経済効果に一定の手応えを感じている。

 MaaSビジネスは、既存の交通網を単に、経路検索や予約・決済機能でつなぐにとどまらない。観光や商業施設といった移動先との連携を通じた潜在的な移動需要の掘り起こしと、これに応える移動手段の提供。これらが相乗効果を発揮しながら地域経済を活性化させる―。そんな将来性を見越した各社の取り組みは、プレーヤー間の連携を加速させながら、一層活発化しそうだ。
NTTドコモとNEDOが2018年末に横浜市で行った実証実験

COMMENT

神崎明子
デジタルメディア局
編集委員

記事中で紹介したWILLAR(ウィラー)やNTTドコモも登壇する「スマートモビリティチャレンジシンポジウムを6月21日に開催します。当日の模様は特集最終回で紹介します。

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