スバルが研究施設を300億円で建て替え、受け継がれる「自動車開発」の魂

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アイサイトを搭載したスバルの新型「レヴォーグ」プロトタイプと中村知美社長

SUBARU(スバル)は、国内唯一の生産拠点となる群馬製作所(群馬県太田市)の本工場(同)敷地内にある研究開発用施設を建て替える。投資規模は約300億円。群馬製作所内に分散する研究開発部隊や東京事業所(東京都三鷹市)の一部を集約するほか技術者の増員も検討する。スバル独自の運転支援システム「アイサイト」などの新技術の開発につなげる。

また本工場の敷地に隣接する土地約5万9000平方メートルに走行試験場を新設する。新たな走行支援システムや自動運転技術などの試験に活用し、研究開発から試験までを一本化する。既存のテストコースがあるスバル研究実験センター(栃木県佐野市)との移動の効率化も図る。

日刊工業新聞2020年6月8日

スバル車、イノベーションのルーツとは

高齢ドライバーによる事故やあおり運転などがニュースなどで取り上げられることが、最近では多くなっている。そうした事故や迷惑行為がここにきて頻繁に起きるようになったというよりも、ドライブレコーダーの普及と、SNSなどへの動画投稿が一般化したことで、より世間にさらされるようになったということだろう。

いずれにせよ、路上の安全についての意識が高まってきているのは間違いない。

また、上記のような事故や迷惑行為は、近い将来、自動運転が普及すればなくなると期待する人もいるかもしれない。確かに、自動運転ならば、高齢による運転技術や注意力の低下を心配することはないし、まさか他の車をあおる自動運転車が開発されることはないだろう。

しかしながら、自動運転が完璧に安全かというと、そんなことはない。むしろ、システムエラーや、悪意のある者がハッキングして意図的に事故を起こすなど、対策が難しい安全問題が浮上する。どんなに技術が進歩しようとも、「安全」の問題はついてまわるのだ。

では、日本の自動車メーカーで、もっとも「安全」を重視しているのは、どこだろうか? 言うまでもなく、安全を軽視する自動車メーカーなど存在し得ないのだが、どこが一番かと言えば、いろいろな見方があるだろう。私としては「SUBARU(スバル)」を推したい。『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』(プレジデント社)を読んだからだ。

同書は、SUBARUの起源である中島飛行機から、富士重工時代を経て現在までの製品・技術開発と企業経営の歴史を辿るノンフィクションだ。

中島飛行機は、1917年に設立された航空機メーカー。主に戦闘機や、それに搭載されるエンジンの開発と生産を行い、最盛期には147の工場、26万人の従業員を擁し「東洋一の航空機メーカー」と言われた。隼(はやぶさ)、鍾馗(しょうき)、疾風(はやて)といった戦闘機の機体やエンジンは同社が開発。有名な「ゼロ戦」は三菱航空機が作ったものだが、量産した機体数は中島飛行機の方が多かったという。

戦後、中島飛行機はGHQによって解体され、工場は分割される。そして各工場に残った航空機のエンジニアは、飛行機の機体製造の技術を生かし、バスの外被ボディや、スクーターなどの製造を始める。やがて各工場は再結集し、富士重工として再スタート。「国民車」として人気を博した軽自動車「スバル360」を世に送り出すことになる。

戦前の中島飛行機時代のマリー技師の安全へのこだわりが引き継がれる

スバル車の「安全」へのこだわりの原点は、中島飛行機に招聘されたフランス人技師、アンドレ・マリーの教えにあるという。マリー技師は、1927年に助手のロバンとともに来日し、中島飛行機の技師たちを指導した。

マリー技師が戦闘機を設計する上で強調したのは「搭乗者の安全を守ること」。戦闘力でもスピードでもなかった。優れたパイロットを、航空機の安全性に不備があったせいで失ってはならない。それは軍の大きなロスになる、と考えていたのだろう。

自動車は飛行機よりはるかに安全だ。だが、スバルは自動車の設計においても、マリー技師の教えを忠実に守り、ドライバーと歩行者の安全を第一に考えている。

例えば「窓の大きさ」。戦闘機はパイロットの視野を広くし、敵機の襲来に気づくために、窓を大きくとっている。スバル(富士重工)は「スバル360」以来の伝統で、窓が大きめに作られているそうだ。また、後ろの視野が狭くなるのを避けるために、車体の後部を高くするデザインは決して採用しない。

また、スバル車のよく知られるイノベーションに、水平対抗エンジン、四輪駆動、アイサイトなどがある。これらはいずれも安全に寄与するものだ。

水平対向エンジンは左右対称で、車の真ん中の低い位置にエンジン本体を置くようになっている。そのことで、一般的な車が載せる直列エンジンに比べ、車体の重心が安定する。四輪駆動も、四つのタイヤが常に接地しているため、車全体が安定し、より安全な走行を約束する。

2008年からスバル車に搭載されているアイサイトは、二つのカメラで、人間の目と同じように路上の歩行者や自転車などを検知し、近づきすぎたらブレーキをかける機構。これが正常に機能するように、30年以上の路上データを収集しているというから、スバルの安全性への執着は半端ない。

『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』には、アイサイトの開発にかかわった技師、樋渡穣さんの「うち(スバル)は航空機メーカーです」という発言が載っている。スバルの技師たちは、「安全」を旗印にした「ヒコーキ野郎」揃いなのだろう。

同書の著者、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんは、今、自動運転の先にあるものとして注目されつつある「空飛ぶ車」にも言及している。垂直に離着陸でき、空中と路上の両方を走行できる夢のクルマだ。これが普及すれば、空港と都心の道路の渋滞がかなり軽減されることが期待できる。そして野地さんは、航空機メーカーのスピリットを受け継ぐ自動車メーカーであるスバルこそ、「空飛ぶ車」の開発に適任だと主張するのである。

想像するしかないが、空飛ぶ車は便利かもしれないものの、安全性を確保するのは相当困難なのではないか。それでも、もしスバルが本腰を上げて取り組めば、必ずや、自信をもって「安全」と言い切れる空飛ぶ車を、私たちに見せてくれるに違いない。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

ニュースイッチ2020年01月19日

『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』
野地 秩嘉 著
プレジデント社
260p 1,700円(税別)

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