鉄道各社も「ウィズコロナ時代」へ出発
新型コロナウイルスの感染拡大は日々の生活を大きく変えた。政府の緊急事態宣言解除後も、感染の「第2波」「第3波」が懸念され、コロナ影響の長期化は不可避な情勢だ。日常生活を営みながら感染を抑止する「ニューノーマル(新常態)」への移行が求められる中、公共交通や観光産業はウィズコロナへ動き出した。
緊急事態宣言下でも大都市の鉄道は、列車の窓を開けて換気に配慮し、混雑緩和のために通常ダイヤで運行を続けてきた。宣言解除後、通勤・通学の利用客は徐々に回復すると見込まれ、安全・安心な輸送サービスの提供には“密”を解消する工夫が不可欠だ。JR東日本の深沢祐二社長は「さまざまな知見を得ながら、取り組んでいきたい」と話す。
混雑の緩和では、時差出勤の効果を最大化するため、混雑予測や可視化といった情報提供が重要となる。各社はスマートフォンのアプリケーション(応用ソフト)を通じて、前週、前日、現在の車内や駅の混雑状況を提供しており、行動の参考にしてもらう考えだ。
消毒も徹底して実施する。中でもJR西日本は、すべての在来線車両5200両を対象に、車内に抗ウイルス・抗菌加工を施す。9月末までに京阪神エリアの3600両を完了させる予定だという。
利便性向上のために導入を進めてきた交通系ICによる乗車やインターネット予約は、券売機などへの接触を減らせるサービスであり、普及を促進する機会にもなりそうだ。
観光 新たな旅行スタイル探る
観光の本格再開にはまだ時間がかかりそうだ。移動の自粛が明けて近場の日帰り観光から回復し、遠方の宿泊観光へと段階を踏んで進むと想定される。感染拡大の落ち着きとともに、旅行先を安心して訪れられる環境整備が欠かせない。早ければ7月中の開始を視野に入れる大型の需要喚起キャンペーンをめどに「新しい生活様式の旅行スタイル」(田端浩観光庁長官)の準備が進むことになる。
宿泊施設向けに策定された業界団体のガイドラインでは、ビュッフェ形式や団体旅行の受け入れなどについても禁止とはせず、実施に当たって配慮すべき点を盛り込んだ。感染予防に必要な各種対策でも、施設に劇的な変化や対応を求めておらず、従来の旅行スタイルにも即したものだ。
旅行会社向けガイドラインでは、団体ツアーも“密”を作らないようにして実施できるとした。ガイドレシーバーの利用や小グループによる時間差入場など、訪問先の観光施設との連携で実現する。観光産業は近年、地方経済の牽引(けんいん)役となってきた。現場では新たな旅行スタイルに期待と不安が入り交じる。