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東芝「半導体分社」、ソニーとの明暗

かつては「セル」で蜜月。成長のけん引役は東芝出身者
東芝「半導体分社」、ソニーとの明暗

画像センサーを手がける熊本工場

「何でこんなに歩留まりが高いんですか」。およそ10年前、半導体生産の不具合解析に携わるソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)シニアリサーチャーの高安秀樹は、東芝の技術者から不思議そうに尋ねられた。ソニーと米IBM、東芝が共同開発した高性能中央演算処理装置(CPU)チップ「セル」の生産で、ソニーは常に他社より数%高い歩留まりを達成していた。

 その秘訣(ひけつ)は、今で言うビッグデータ(大量データ)分析。製造時に出る100万ほどの全てのデータを取得し、不具合の原因を装置や加工レベルで特定して対策を講じる生産改善活動「ステルスプロジェクト」を実施した。しかし「セル」はゲーム機「プレイステーション3」以外の用途拡大に失敗。大規模な損失を生んだ。

 そして現在。高感度相補型金属酸化膜半導体(CMOS)画像センサーの成功で、半導体事業は成長けん引事業に位置付けられるようになった。世界シェアは約40%で首位を占める。スマートフォンやデジタルカメラに続き、新たに狙うのは自動運転を軸とした車載向け。事業を推進する仲間は、過去に競り合ってきた東芝出身のメンバーだ。

 ソニーは2016年に東芝からCMOS画像センサーの生産設備や、関連する技術者を取得した。「一つの課題に対する選択肢が増えた。オープンに議論する場はできている」。東芝出身でソニーセミコンダクタソリューションズ(神奈川県厚木市)の車載事業部長の野口達夫は、相乗効果の手応えを感じている。

 ダイナミックレンジの広さや高感度などを武器に、16年から自動車メーカーなどへのサンプル出荷を開始。海外の販売会社に担当者を置くなどして徐々に引き合いは増加した。同年にはデンソーが開発中の自動ブレーキシステムへの採用を決定した。野口は「車載の世界でも1位になる」と意気込む。

 副社長の吉田憲一郎は「自動車など(利益貢献が)長期的な分野に重点投資している」とする。16年度は熊本地震で立ち止まることになったが、17年度にどこまで半導体事業を回復させて伸ばせるかがソニー復活の試金石となる。

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日刊工業新聞2017年1月19日/25日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
分社と言っても、ソニーと東芝の置かれている状況はまったく違う。ただこの15年ぐらいのスパンでみると両社の半導体事業はとても因縁深い。 「会社のカタチ」という視点でみれば、東芝は電機大手の中でもっとも早くカンパニー制を取り入れた会社の一つ。ただ、ことマネジメントでいえばそれが悪い方にでた。社内で「原子力ムラ」、「PCムラ」などが出来上がり、1つの事業しか見ていない人が社長になり、結果的に不正会計や巨額の負債を幹部ですら把握できないという状況に陥った。 かつてのソニーも事業部の独立心が強く、それが悪い方に出ている時はCFOへ上がってくる情報がとても不正確だった。それは吉田さんにCFOが代わってかなり改善されつつある。

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