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内視鏡ももう辛くない!吐き気を感じにくいマウスピースとは?

イナバゴムが開発

産業用ゴム製品を手がけるイナバゴム(大阪市西区、岡本吉久社長、06・6448・3645)は、鳥取大学の医師と共同でマウスピース「ギャグレス」を開発した。胃や食道の内視鏡検査で使用し、奥歯でかむことで内視鏡スコープの挿入時に吐き気を感じにくい。固さや形状を工夫し、咽頭反射を従来品より84%軽減した。2018年の発売後、展示会での売り込みなどを通じ800個をすでに販売。現在も知名度の向上に力を入れる。

奥歯でかむ

「鳥取大学の主催する産学連携の講座が開発のきっかけだ」と同社技術開発センターの西需(にし・もとむ)氏は振り返る。今から5―6年前、事業拡大のため新たな市場を模索していた同社は、同大の主催する医療機器開発の人材育成講座に参加した。そこで鳥取大医学部の医師から「吐き気を感じにくいマウスピース」の開発提案を受けたという。

上部消化管の内視鏡検査では口から内視鏡スコープを挿入する。患者がくわえたマウスピースを通じてスコープを体内に送り込むが、従来のマウスピースは前歯でかむため喉の奥が広がりにくく、スコープを飲み込む際に吐き気が生じやすかった。そこで鳥取大の内科医や耳鼻咽喉科医が、奥歯でかむことで舌根が下がり、喉の奥が広がりやすいマウスピースを考案。スコープが喉奥に触れにくく吐き気を軽減できる。

知名度不足

「鍵は固さと形状だった」と西氏は説明する。内視鏡検査の間、患者はマウスピースをかみ続けなければならない。かんだ際に適度につぶれるクッション性と、万人の口に合う形状を両立する必要があった。「かみやすい角度を決めるのに苦労した」と西氏は話す。

当初はゴムで製造を試みたが、伸び縮みしやすく厚みが保てない。熱可塑性エラストマーという樹脂を採用し、肉抜きをすることで厚みを一定に保った。厚みが不均一だと、表面と内部で樹脂が冷えて固まるまでに時間差が生じ、形状に歪みが生じて耐久性が保てなくなるためだ。

「ギャグレス」は肉抜きをすることで一定の厚みを保った

同社は樹脂製品の金型を作れるメーカーとつきあいがあり、設計段階から協力を得られた。「本格的に開発し始めたのは16年から。県の助成金が出る期間が1年しかなく、大変だった」と西氏は明かす。医師の意見を反映しつつ、7回の試作を繰り返した。

医療機器として届け出を出し、18年に発売。医療機器のディーラーを介して販売網を広げているが「まだ知名度が低く、展示会で地道に売り込んでいる」(西氏)という。

同社は医工連携に積極的に取り組み、耳鼻科の検査で耳の内部を見るための「耳鏡」も開発中だ。「従来の耳鏡は金属製で耳の奥に入れると痛く、子どもが怖がる」と西氏は説明し「ゴム製で柔らかく、痛みを感じにくい耳鏡を数年以内に開発したい」と意気込む。

高齢化に伴い上部消化管の内視鏡検査は増加傾向にある。この内視鏡検査では必ずマウスピースを使用するため、同製品は安定的な需要を見込めそうだ。

高永化学は塩ビパイプを使った簡易間仕切りを開発した(同社提供)

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