進化する妊活市場、子どもは「授かるから産生に」

「家にいる時間がとれる今こそ」

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血液から多血小板血漿(PRP)を抽出して、PFC―FDに加工する

近年、子どもが欲しいと思うカップルは妊娠活動、いわゆる「妊活」をするようになった。女性の排卵日を把握しながら子作りを進めるタイミング療法が一般的だが、今では男性の精子をチェックする製品も販売されている。不妊治療も再生医療を活用するなど進化する。存在が確立されつつある“妊活市場”の今を追った。(門脇花梨)

ビッグデータ アプリで“その日”伝える

「自分の体のことを知るのが、初めの一歩になる」。エムティーアイの日根麻綾執行役員はアドバイスする。同社は生理日管理など、女性の体調管理をサポートするアプリケーション「ルナルナ」を展開する。1500万ダウンロードを超えており、女性向けアプリ市場において一定の地位を獲得している。

妊活で多くの人が始めに実践するのが、タイミング療法だ。女性の排卵日に合わせて性行為をする方法で、排卵日の把握が成否のカギ。ルナルナで日々の情報を記録していれば、排卵するであろう日を知ることができる。

有料のプレミアムコースでは一歩進んだ「仲良し日予測」機能を搭載し、個人に合わせた「妊娠しやすい日」を知らせる。

「ルナルナ」のプレミアムコースでは妊娠しやすい日を仲良し日として知らせる

日根執行役員は「ルナルナは2000年から提供し、生理日や排卵日に関する情報がビッグデータとなっている。単純に排卵しそうな日、ではなく妊娠しやすい日をお知らせできるようになった」と手応えを話す。

さらにルナルナは、妊活から不妊治療に発展した場合のアプリも用意している。「ルナルナ体温ノート」は、生理日の他に基礎体温を記録でき、自動でグラフ化もしてくれる。

「治療サポートコース」も用意しており、通院日記録や治療の振り返りができる。有料ではあるが、検査内容や治療結果を記録することも可能だ。

エムティーアイは、医療機関との提携も進める。ルナルナで記録した情報を提携医院に提示できるシステム「ルナルナ メディコ」を展開中だ。患者が医師に6ケタの暗証コードを伝えるだけで情報を共有でき、紙に書き直す作業が省ける。

既に800以上の医療機関で導入済みだ。医師と患者、双方の負担を減らすことで、充実した診察・診療時間を実現する。

ビッグデータと医療機関との提携を強みとし、より個人の状況に寄り添った不妊治療サポートを目指す。

男性サポート 「認知」高め意識改革

一方、TENGAヘルスケア(東京都港区)は、男性側の妊活を支援。スマートフォンを使って精子を観察できる「メンズルーペ」や、膣内射精ができるようサポートする「メンズトレーニングカップ」などを展開する。

佐藤雅信取締役は「男性向け妊活市場は大きく拡大する余地がある。まずは男性にもできる妊活があることの認知を高め、意識を変えたい」と意気込む。

男性の妊活において始めに重要となるのは「精子の運動率」だ。精液内に生きた精子がどの程度存在しているかによって、自然に受精できる確率が変わる。メンズルーペは、自身で精液内の精子の様子を観察できる。

メンズルーペはスマホのカメラを使い、精子の様子を自分で確認できる

スマートフォンのインカメラにレンズをセットし、精液を1滴たらしたプレートをのせると、画面に精子が泳ぐ様子がリアルタイムで映る。精子が「元気」か否かを判断できる。4回使えるため、体調や季節による変化も把握できる。

ただ、あくまで簡易的な観察キットで医学的判断をする製品ではない。まずは現状を把握し、必要に応じて病院に行くきっかけにしてほしいという。

また近年、間違った自慰行為などが原因で、女性の膣内で射精できない男性の存在も明らかになっている。そこで同社は、膣内射精ができるようサポートするトレーニングカップを開発した。

不妊患者の13・5%が性機能障害で、そのうち53%が膣内射精障害だという

刺激の違う五つのカップを段階的に使用する。徐々に弱い刺激に減らすことで、膣内に近い環境で射精できるようになるという。

佐藤取締役は「不妊患者の13・5%が性機能障害で、そのうち53%が膣内射精障害だというデータがある。深刻な悩みを解決できれば」と話す。

同社は精子を運ぶ際に保温する「シードポッド」も販売する。不妊治療では精子を採取するが、精子は温度変化に弱く、人肌程度の温度を維持して運ぶ必要がある。そこで専用の保温ポッドを開発し、医療機関などに導入している。

妊活から不妊治療まで、総合的に男性側を支援している。

バイオ技術 組織修復能力に注目

不妊治療の現場に新技術を提供するバイオベンチャーも出現した。再生医療関連事業を手がけるセルソースは、「多血小板血漿〈しょう〉(PRP)」に含まれる成長因子を凝集し、フリーズドライ加工した「PFC―FD」を医療機関に提供する。

不妊治療において多くのカップルが取り組む体外受精だが、受精卵の「着床」が課題だ。受精卵を女性の体内に戻しても、子宮内膜の厚みが7ミリメートル未満の場合、着床、妊娠が極めて難しいとされている。

そこで近年、注目されるのがPRPだ。血小板の成長因子が持つ組織修復能力を発揮するといわれており、女性の子宮内に注入すると、子宮内膜を厚くする可能性がある。

セルソースの裙本(つまもと)理人社長は、「日本受精着床学会総会・学術講演会において、PRP投与により子宮内膜の厚みが平均1・27ミリメートル増加したと報告されている。当社のPFC―FDも同等以上の効果を上げる可能性がある」と期待を寄せる。

同社は、血液の加工を手がけている。医療機関は妊娠を希望する患者の血液を採取し、同社に送る。PRPを取り出してPFC―FDに加工し、医療機関に戻す。安全性試験を含めて3週間かかるという。

そしてタイミングを見て子宮に注入する。自身の血液由来の物質を使うため、拒絶反応などがなく、安全性が高い。また、フリーズドライ加工したことで、室温での長期保存が可能だ。

裙本社長は「患者のタイミングに合わせて投与できることは、不妊治療において重要なポイントとなる。提供医療機関数を増やしたい」と説明する。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日本生殖医学会は会員医師に対し、不妊治療の延期を選択肢として提示してほしい旨の声明を発表した。体外受精の予定を延期するカップルも多いだろう。

ただ、妊娠はしたいと思ったときにできるとは限らない。男女ともに年齢的な制限もある。エムティーアイとTENGAヘルスケアは「家にいる時間がとれる今こそ、自身の体のことを勉強し、準備の時間にしてほしい」と強調する。

エムティーアイは現在300万―350万人が妊活中と試算する。人口減少や少子高齢化で、今後は大幅に増えそうにはない。しかし次々と新たなソリューションが生み出されており、妊活市場は伸びる余地がありそうだ。個別化や男性への啓発、より安全な新技術の創出が成長のカギを握っている。

日刊工業新聞2020年4月30日

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