【連載・中国依存の功罪】「コロナ後」も不安多い自動車
世界の新車販売の約3割を占めるとされる中国は自動車メーカーにとって最大市場。各社は主力車を積極投入し、業績を担う市場に成長した。一方、市場の大きさゆえに、米中貿易摩擦や環境規制、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響に翻弄(ほんろう)されている。生産面でも人件費の高騰、新型コロナでみられたサプライチェーン(供給網)問題など、過度な中国依存への課題は多い。巨大市場に生産・販売両面で今後どう向き合うのか、戦略の再点検が求められる。
中国汽車工業協会がまとめた中国における2019年の新車販売は前年比8・2%減の2577万台と2年連続の前年割れとなった。米中貿易摩擦による消費の鈍りが主な要因だ。
ただ日本勢は欧米などの競合他社が苦戦を強いられる中、相対的に好調を維持。調査会社マークラインズによると日本勢の合計販売台数は同2・7%増の456万台と増えた。杉本浩一三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニアアナリストは「質への転換が進む中、日本勢の品質やコストなどが支持された」とみる。
中でもトヨタ自動車の19年の中国新車販売は前年比9%増の約162万台。セダン「カローラ」など新型モデルを相次いで投入したことが奏功した。中国では中古車市場の拡大が新車販売低迷の一因とされるが、トヨタのディディエ・ルロワ副社長(当時)は2月の決算発表で「中古車価格が下がらないよう安易な値下げをしなかった」と強調した。
新型コロナの中国での拡散の影響を受け、日系メーカーの2月の新車販売台数は前年同月比でおよそ7―8割も大幅に減少した。だが、これは感染が終息すれば、ある程度取り戻せる数字。問題の核心は、実はコロナ以外にある。
中国の自動車産業は国の成長産業として発展してきたが、その副産物が露呈している。中国政府による政策的な干渉を大きく受けるほか、現地企業との競争激化などの課題が顕在化。19年に新エネルギー車(NEV)の生産・販売を優遇する「NEV規制」など日系メーカーが望む環境規制を設けたが、米中貿易摩擦の影響などにより、政府主導の市場拡大とNEV需要の乖離(かいり)が拡大した。
SMBC日興証券の木下寿英株式調査部シニアアナリストは「コロナの影響を差し引いても20年の市場は厳しい状況だ」と見通す。
他方、供給網でも課題を抱える。日産自動車は中国現地から部品を調達できる供給網を構築している。だが、コロナの影響により供給網や物流網の乱れに苦しめられ、日本の生産にも飛び火した。中国の現地企業との人材争奪が激化していることを踏まえ、「人件費高騰で現地生産の利点が薄れてきた。もう一度(供給網を)再考する必要がある」(日産幹部)と課題が浮かび上がった。
中国は長期的には拡大する魅力的な市場であることは間違いない。だが想定しづらい外部環境リスクも念頭に、柔軟性のある戦略を複数用意する必要性が増してきた。
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