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OBも驚きの「副社長」廃止、トヨタ社長が後継者見極めに本腰

OBも驚きの「副社長」廃止、トヨタ社長が後継者見極めに本腰

トヨタの豊田社長(左)と5人の副社長は19年に開催した東京モーターショーで経営会議の様子を再現し、自社の取り組みをアピールした

トヨタ自動車が次世代の経営層の育成を加速する。4月1日付けで副社長職を廃止し、豊田章男社長の下に置くすべての執行役員を同列にする。豊田社長との接点を増やし意思決定を迅速にするほか、後継候補にトップとしてのスキルや心構えを習得してもらう狙い。副社長職の廃止は、トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併した1982年以来初めて。電動化や自動運転など事業環境が激変する中、聖域なき改革のギアを上げる。(取材=名古屋編集委員・長塚崇寛)

【まだ過渡期】

「まさか副社長を廃止するとは。豊田社長の本気度がうかがえる」。豊田社長とともに経営の中枢を担ってきた副社長職の廃止に、トヨタOBは驚きを隠さない。トヨタはここ数年、激化する自動車業界の競争に生き残るため、社内の意識改革に力点を置いてきた。副社長職の廃止も、全社員に改革の熱量を示そうとしたとも見て取れる。

トヨタは11年1月に取締役を27人から11人(現在は9人)に減らし、経営層のスリム化を推進。19年1月には専務役員を執行役員に、常務役員、常務理事、基幹職1級・2級、技範級を幹部職としてくくるなど、役員階層の削減を進めてきた。

副社長職の廃止で改革の大枠が完成したように見えるが、豊田社長は「新体制もまだまだスタートポイントに立ったばかりの『過渡期』であり、今後も随時見直すことになる」と改革の手綱を緩めない考え。若手役員の重用など慣例にとらわれない体制の構築で、外部環境の変化に機動的に対応する。

【柔軟な組織】

現在6人いる副社長は執行役員に一本化されるが、ディディエ・ルロワ氏は取締役に専念し、吉田守孝氏は退任する。執行役員21人を同格とし、「チーフオフィサー」「カンパニープレジデント」「地域最高経営責任者(CEO)」「各機能担当」と四つの職務を設定。役割を固定せずその時々の責任者を配置し、柔軟な組織づくりにつなげる。

トヨタ首脳は階層削減について「キーワードはスピード。間違ったらまた変えればよい」と言い切る。トヨタは16年に社内カンパニー制を敷き、カンパニーのプレジデントに権限を移譲することで意思決定の速度を高めてきた。

ただ、現在は経営トップ(社長)とプレジデントの間に副社長職があり、スピード感を出し切れていないのが実情。電動化や自動運転など次世代技術の競争に打ち勝つには「経営トップとプレジデントのコミュニケーションを密にする必要がある」(トヨタ首脳)。

【原点回帰】

豊田社長は執行役員を「今のトップを支える経営陣であるとともに、次のトップの候補生」と位置づけ、後継者の見極めにも本腰を入れ始めた。後継を育成する上で「次世代にたすきをつなぐためには、トヨタらしさを取り戻さなければならない」と危機感を抱く。

トヨタの競争力の源泉はトヨタ生産方式(TPS)と原価の作り込みだが、「成功体験を積み重ねる上で、それらが失われている」と豊田社長。自らの手で原点回帰を成し遂げ、後進にたどる道筋を示す構えだ。

日刊工業新聞2020年3月23日

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