自己喪失から抜け出せない日産、身を縮める「500万台体制」の成否

中計見直し大詰め、コロナ禍が販売苦戦に追い打ち

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19年10―12月期連結決算で当期損益が11年ぶりの赤字に転落(会見する内田社長)

日産自動車が、5月に公表予定の2022年度までの中期経営計画の策定作業がこれから大詰めを迎える。以前からの販売苦戦に加え、新型コロナウイルスの感染拡大により世界的に市場が落ち込む厳しい状況にあり、大規模な構造改革が不可欠だ。事業の選択・集中を進め、世界販売で500万台水準に身の丈を縮める方向で検討が進む。一方、元会長カルロス・ゴーン被告の退場後、いまだ長期ビジョンを描けないことも課題として残る。新中計で業績回復の道筋を示し、自動車メーカーとしての存在意義を再定義できるか。

“門構え”小さく 固定費3000億円削減も

「世界販売500万台の自動車メーカーだと認識し、生産や販売の“門構え”を小さくしていくしかない」―。日産幹部は経営立て直しの方向性についてこう話す。

日産の業績悪化は深刻だ。2月に公表した19年10―12月期連結決算は、当期損益が260億円の赤字(前年同期は704億円の黒字)と同期として11年ぶりに赤字転落。通期予想では今期2回目となる下方修正に踏み切った。世界販売は過去最高の17年度の577万台から12・5%減の505万台まで落ち込む見込み。

ゴーン被告が掲げた拡大戦略で、新興国向け投資を積極化したが販売は低迷。シワ寄せで先進国向けの新モデル開発が後手に回り、商品力が落ち日米欧でも苦戦する。

日産は17年11月に公表した22年度までの中計を19年7月に見直した。しかし、その後も加速する業績悪化を受け、同12月に内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)が、再度の見直しに着手し、5月に発表する方針を示した。足元では新型コロナ感染問題による世界規模の需要減で事業環境は厳しさを増しており、リストラ策の積み増しが避けられない情勢にある。

19年7月までに公表した事業改革では、世界生産能力について720万台(18年度)を22年度に660万台に減らす計画を示した。足元では今の実体に合わせ500万台水準を射程にさらなる引き下げの検討が進む。日産の固定費は約2兆円規模。500万台水準で再出発するのであれば、「計算上は固定費を2000億―3000億円減らさないといけない」(日産幹部)。内田社長は「(事業展開を)断念せざるを得ないような地域や分野が出てくるかもしれない」と覚悟を示す。

ルノーにも「できないものは『ノー』」

ポイントになるのは仏ルノー・三菱自動車との連合を活用した事業の選択と集中だ。連合3社で開発の各分野ごとにリーダーを1社決め、他の2社を支援する「リーダー・フォロワー」戦略を進めるほか、同様の考え方で地域展開も役割分担する。主に日産がリードする分野としては、商品は中型車、技術は電動化と自動運転、地域は日本や米国、中国とする方向でルノー・三菱自との調整が進む。

前社長の西川広人氏の後任選びでは、アシュワニ・グプタ氏(現日産最高執行責任者)をルノー側が推し、関潤氏(4月1日付で日本電産社長)を日産側が推す構図の中で、中立的な位置にあった内田氏に白羽の矢が立った。こうした経緯から関係者の間では「交渉ごとでルノーに押されるのでは」との懸念があった。しかし日産のある取締役は「内田氏は、できないものは『ノー』と明言し、(ルノーの)スナール会長を黙らせている。日本語より英語の方が勢いが出るようだ」と明かす。

痛みを伴う改革にどこまで踏み込めるか。試金石は欧州事業だ。日産の19年の欧州販売は約57万台で市場シェアは3%に満たない。欧州市場は環境規制が厳しく、現地メーカーでも利益を確保するのが難しい。日産社内では「全面撤退すべきだ」との声も挙がった。

6日には英サンダーランド工場での投資計画を発表しており、当面は全面撤退の可能性は消えた。ただスペインのバルセロナ工場は低稼働率から抜け出せず、幾度となく閉鎖候補に挙がる。足元では新型コロナの影響で現地の従業員約3000人を一時解雇する方針を決め、厳しさは増す。内田社長がバルセロナ工場の行く末にどのような判断を下すのか、注目される。

主要サプライヤーが内田社長に談判

マレリ、小糸製作所、矢崎総業、ニッパツ、ヨロズ―。2月下旬、日産の主要サプライヤー5社の幹部が、日産本社の内田社長を訪れた。サプライヤーを代表し、部品メーカーとのコミュニケーション強化や、行き過ぎた原価低減の緩和を訴えたが、根底にあったのは日産の長期ビジョンが見えないことへの不安だ。部品メーカー首脳は「ゴールが見えない状態で、原価低減に付き合うのは難しい」と厳しい。

かつては「日産と言えばゴーン」であり、そのカリスマ経営者が掲げた「世界一の自動車メーカーを目指す」という野望が、良くも悪くも日産、サプライヤーの求心力だった。ゴーン被告という“背骨”を失い、いまだ日産はアイデンティティークライシス(自己喪失)から抜け出せずにいる。内田社長も危機感を持っており、「企業としての存在意義を定義し、社内文化の改革を果たすことが私の使命」と明言する。では何が日産のよりどころになるのか。カギはダイバーシティーだ。

19年10月、日産は研究開発拠点「日産先進技術開発センター」(神奈川県厚木市)などで、新技術を披露するイベントを証券アナリストや記者らを対象に開いた。基礎研究から実用化間近の技術まで幅広く、担当技術者がフリップなどを使って説明した。参加した木下寿英SMBC日興証券株式調査部シニアアナリストは「技術者のプレゼンテーション能力の高さに驚いた」と打ち明ける。

突出したダイバーシティー環境を生かせるか

木下氏は「一般的に技術者の話はややこしいが、日産の技術者は、こちらの質問を的確に理解し完結に答えを返してくれた」と指摘し、「ルノーの外国人技術者らとも頻繁に議論するダイバーシティー環境で培われた能力だろう」と推測する。

コネクテッドや自動運転技術の進化に伴い、自動車産業の競争軸は、車をつくって売ることから、移動サービスをどう展開するかに移行している。用途や地域、年齢層などで異なる多様な顧客ニーズに対応していくためにはダイバーシティーに基づく発想が欠かせず、その性質では日本の自動車メーカーとして日産は突出した存在だ。

「どの部門も現場は一生懸命やっている。今は(本社のある)“横浜”がだらしない」と日産OBは話す。事業の選択・集中を着実に実行し、ダイバーシティーを生かしながら日産が自動車メーカーとして進むべき道を示せれば、復活が見えてくる。内田社長の手腕に全ステークホルダーが期待している。

(取材・後藤信之、渡辺光太)

日刊工業新聞2020年3月27日

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