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アスリートのセカンドキャリアをビジネスへ 経験生かすファンド設立

人生100年時代。ライフステージに応じたスキルセットが求められるのはアスリートとて例外ではなく、むしろ現役引退後の長い人生を考えれば大きな課題だ。セカンドキャリア支援が広がるなか、競技を極める過程で培われた能力や経験をより積極的にビジネスに生かせるよう、スポーツ界と産業界が連携した新たな取り組みが始まる。

3月初め、都内で行われたスポーツ庁主催のシンポジウム。日本スポーツ振興センター(JSC)は、引退したアスリートが自らの経験を生かして社会課題の解決につなげる活動を後押しする基金「ネクスト・アスリート・ファンド(仮称)」を立ち上げると明らかにした。民間企業から出資を募り「スポーツを通じた健康社会の実現」をテーマにアスリートが取り組む新商品や新サービスの開発に必要な事業資金を最大2000万円支援する。2020年度中にスキームを固め、21年度からスタート。30年度までの10年間で100事業を選出し「スポーツSDGsプログラム」として認証する計画だ。

アスリートのセカンドキャリアをめぐっては、引退選手と就職先となる企業をマッチングさせる事業や、現役時代から引退後を見据えた学びを推奨するなど、さまざまな動きが広がっている。起業家に転身したアスリートも少なくない。その一人、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏は腸内環境の解析を手がけるスタートアップ「AuB(オーブ)」を15年に設立。アスリートのパフォーマンス向上や一般の人の健康維持に取り組んでいる。「アスリートは単に『運動する人』ではなく『チャレンジする人』と同義。だからこそ、スポーツとビジネスは越境すべきだ」(鈴木氏)と語る。

元サッカー日本代表の鈴木啓太氏

「アスリート経験は引退したら終わりではなく、その資質を『資本』と捉え戦略的に転用すべきだ」。こう指摘するのは法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授。ただ「スポーツ界だけに通用する言語ではなく、産業界に訴求できる言語に『変換』することが重要。その橋渡しにキャリア支援の意義がある」と強調する。

スポーツ庁ではアスリートの引退後について、スポーツ界のみならず教育界、経済界と設立したコンソーシアムを通じて、検討を重ねている。近くキャリアの実態調査についてもまとめる予定で、長期的な視点で彼ら・彼女らの活躍を後押しする構えだ。

神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
このシンポジウムを取材する過程で、ある人から「トップアスリートのその後の人生を描くインタビューで構成する『表彰台の降り方』と題するウエッブマガジンの存在を教えてもらいました。夢の舞台を降りてからの人生は本当に人それぞれ。今回のスポーツ庁の取り組みは、ビジネスを通じてその選択肢をひとつ増やすものです。

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