eスポーツ・マイナースポーツ動画をテックで面白く…制作システムの新市場に
eスポーツやマイナースポーツの動画配信や実況が新しいビジネスになっている。これまで観客がほとんどいなかった試合やゲームを面白く伝えてコンテンツにする。求められるのはローコストでマッシブ(大多数)に対応する動画制作システムだ。人工知能(AI)技術で試合を解説したり、ユーザー生成型コンテンツ(UGC)として観客や競技者がハイライトを作ったりする環境が必要になる。実現すれば観客や競技者が発信者になり、競技コミュニティーを盛り上げられる。(取材・小寺貴之)
【誰でも簡単に】
「クリエイティブ(動画創作)を民主化する」とSoVeC(東京都品川区)の上川衛社長は力をこめる。同社はソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都品川区)とベクトルの合弁ベンチャーだ。デザイナーが制作してきた高品質動画を、誰でも簡単に作れるクラウドサービスを提供する。
ブラウザー上で動画や画像を数個選び、それぞれにファインプレーや解説などのキーメッセージを添える。すると選択フォーマットに沿った数十秒の動画がいくつも生成される。
制作者にとってはハイライト動画を「作る」というよりもAIが生成した作品から「選ぶ」感覚だ。SNS(会員制交流サイト)や広告、動画マニュアルなどの動画制作ツールとして2019年11月にリリースした。上川社長は「3カ月で本当に広い分野で成約できた」と振り返る。
スポーツの試合映像からダイジェストを生成する技術はすでにあった。観客の声援量から見所を特定したり、得点シーンを抜き出したりして編集するものだ。こうした手法は競技者のパーソナリティーを反映しにくい。eスポーツやマイナースポーツは観客が少ないため、プレーヤーを起点とするシステムが必要だった。特にeスポーツで100人規模の大乱戦になるゲームもある。大会では実況担当者もすべてを把握できないほどだ。そして大会のハイライトよりもプレーヤー一人ひとりのハイライトに価値がある。自身で戦いを振り返って脚色し、みながSNSに発信して一つの大きな流れをつくる。
【優勢劣勢見極め】
ドワンゴは人間でも試合の優勢劣勢を見極めにくいゲームへのAI適用を進めている。任天堂の対戦ゲーム「スプラトゥーン」では俯瞰(ふかん)映像からAIに勝敗を予測させ、その評価値を戦況の優劣とした。試合中の優劣の推移からチームごとに序盤の強さや逆転する力などを算出した。大会で多数のチームが参加しても客観的にチームの戦略や特徴を網羅分析できる。AIの予想が裏切られることを含めて、知らないチームの戦いが面白くなる。
【見せ方広げる】
マージャンではAIに大量の牌譜を学習させ、各牌をきるリスクを一つひとつ予測する。三色同順より一気通貫を好むなど、その一手の有名雀士らしさも数値化する。小田桐優理MLエンジニアリング部部長は「いまの一手は〇〇さんっぽいと、人に結びつけて解説できる。戦略やセオリーに明るくない人も顔を思い浮かべながら楽しめる」と説明する。
AIで戦況を可視化したり、戦略や判断などの抽象的な要素を多くの人が想像しやすい要素に結びつける手法は広く応用できる。小田桐部長は「試合自体は中継されても観客にとって情報が少ないがために、もったいない状態の競技は少なくない。AIで見せ方を広げられる」という。
プレーヤーがハイライト制作を担ったり、AIで解説や演出を効率化したりと、試合を面白く伝える技術は広がっている。eスポーツやマイナースポーツのファンを増やす起爆剤になると期待される。
【追記コメント】
米国では高校生のスポーツ試合が配信されています。ポピュラーな競技ではバスケットボールや野球、アイスホッケー、チアダンス。他にもゴルフやテニス、フェンシングに並んで、Eスポーツやチェス、ロボティクス、アカデミックパフォーマンスなども配信されています。NFHS(全米州立高等学校連合会)とNFHSネットワークの事業で、AIカメラなどで撮影コストを抑え、親御さんや在校生、OBなどに届けます。このビジネスモデルが上手くいくのか、日本国内で注視していた人は少なくないのですが、一部でGOサインがでました。2020年にはこのモデルを輸入して学生スポーツやマイナースポーツの配信が始まる予定です。ただ、試合映像を垂れ流すだけでは演出に乏しく、集客に苦労すると思います。子どもの試合のDVDを買うなど、物販も収入源になりますが、AIカメラの整備費用には足りないだろうと思います。そこでゲームの演出やチーム分析、解析を自動化したり、プレーヤーが発信者になりPRを担えるシステムが重要になります。