「フィット」開発者の本音、中性的なデザインへと導いた“人研究"
本田技術研究所オートモービルセンター 商品企画室LPL主任研究員 田中健樹氏
4代目となる「フィット」は、歴代モデルが築いた優れた性能・機能をベースに、数値では表せない「心地よさ」という価値にこだわったのが特徴だ。
安全性を確保しつつフロントピラーを細くして心地よい視界を実現したほか、骨盤から腰椎までを樹脂製マットで支える新シートを採用し、座り心地を高めた。また2モーター式のハイブリッド車(HV)システムを搭載し、快適な乗り心地を提供する。ネットサービスを充実させるなど使い心地を高めた点もアピールしたい。
2001年に投入した初代フィットは、広い室内空間や若々しいデザイン、優れた環境性能などで顧客の潜在ニーズに応え、ホンダを代表するモデルになった。その後の2、3代目でも室内空間や燃費性能を着実に磨いてきた。
しかしライバル車と同じ土俵での戦いになってしまい、フィットならではの付加価値を成長させられていない課題が浮き彫りになった。今回の4代目は「もう一度、顧客の潜在ニーズに応えよう」と開発を進めた。その結果、到達したのが心地よさの追求だった。
ただ潜在ニーズを従来の手法で探るのには限界がある。そこでホンダが続けてきた、何が人に求められているのかを探る「人研究」の成果を応用した。多数の画像の中から設問に応じた画像を選んでもらうといった手法を用いて、コンパクトカーに対しユーザー自身も気付いていない不満やニーズを掘り起こし開発に生かした。
デザインは初代からの特徴的なワンモーションフォルム(車両前方から後方までを一つの曲線で結ぶデザイン)を引き継ぎつつ、心地よさを具現化するようシンプルかつクリーンに仕上げた。先の3代目はやや男性的だったが、中性的なデザインを狙った。
車両タイプに関しては従来のように装備などの違いで設定するのではなく、顧客のライフスタイルやライフステージに合わせて選択できるよう設定した。シンプルな「ベーシック」、生活に馴染むデザインと快適性を備えた「ホーム」、洗練と上質を兼ね備えた「リュクス」など5種類をそろえた。
ミニバンからの乗り換えや、今まで訴求力がやや弱かった女性など幅広くユーザーを取り込みたい。
【記者の目】
発表会では性能・燃費や走りといった機能面を強調するような演出はなかった。心地よさを全面に打ち出したのは、消費者の車への関心が、機能面より「車が生活をどう豊かにしてくれるか」にシフトしたと判断した結果だろう。月販計画は1万台。ホンダが示した新たな競争軸が消費者の心にどう響くか注目したい。
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