「フィット vs ヤリス vs ノート」小型車戦争の勝者は?
ホンダは、小型車「フィット」を約6年半ぶりに全面改良して14日に発売する。10日にはトヨタ自動車が同「ヤリス」の新モデルを発売したばかり。また年内には日産自動車が同「ノート」を全面改良する見込み。相次ぐ新モデル投入は、縮小傾向にある小型車市場の活性化につながるか。(取材=編集委員・後藤信之)
新型フィットは、消費者の潜在ニーズを探る独自の調査手法で「心地良さを追求した」と開発責任者の田中健樹本田技術研究所主任研究員はアピールする。例えば安全性を確保しつつフロントピラーを細くして「心地良い視界」を実現したほか、国内で初めて車載通信モジュールを搭載し、ネットサービスの「使い心地」も高めた。
また同社の小型車として初めて2モーター式のハイブリッド車(HV)システムを搭載し、燃費はWLTCモードで1リットル当たり28・8キロメートル。HV仕様の価格は消費税込みで199万7600円から。月販計画は1万台とした。
一方、トヨタは10日、「ヴィッツ」の名称を海外名「ヤリス」に変更し、全面改良モデルを発売した。プラットフォーム(車台)には小型車で初めて、新設計思想「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」を採用。開発の効率化でコストの大幅削減につなげた。
HVシステムも刷新し世界最高レベルの燃費性能を達成しており、最上級グレードでは1リットル当たり36・0キロメートル。HV仕様の価格は199万8000円から。月販目標は7800台。
フィット、ヤリスともに、初めての技術や機能を盛り込んだ意欲作。両者が属する小型車・ハッチバック市場は登録乗用車販売の最大セグメントで、業界関係者は「販売ボリュームは期待できる」と話す。ただ楽観視はできない。
国内の小型車市場は縮小傾向にある。登録乗用車販売のうち、全長4700ミリ・全幅1700ミリメートルに収まる「小型乗用車」の比率は15年の約50%から19年に約44%まで縮小した。
小型乗用車は狭い日本の道路になじむサイズとして普及してきた。しかし、よりサイズの大きい「普通乗用車」が、デザインの自由度の高さや、優れた居住性を武器に存在感を高める。スポーツ多目的車(SUV)はその筆頭だ。一方、維持費が割安なメリットなどから、よりサイズの小さい軽自動車の人気が高まっている。
小型乗用車は、普通乗用車と軽の両方向から攻め込まれる格好で、ゴールドマン・サックス証券の湯沢康太マネージング・ディレクターは「新モデルというだけで小型車が売れる市場ではなくなった」と指摘する。
もともとフィットは2019年11月の発売予定だったが、部品調達問題で延期し、くしくもヤリスと同じタイミングでの販売開始となった。「新しい時代のコンパクトカーの標準」(寺谷公良ホンダ執行役員)という新型フィット、「トヨタのコンパクトカーづくりをゼロから見直した」(吉田守孝トヨタ副社長)という新型ヤリス。両者で競い合いながら小型車復権に導けるか、視線が集まる。