「公助だけでは何もできない」…“凶暴化”する水の災害にどう立ち向かうか

15年9月の鬼怒川決壊、災害現場(茨城県常総市)。近年は毎年のように全国各地で自然災害が頻発している

気候変動により、日本の災害が変わってきたことに疑いの余地はないだろう。特に目立つのは「水の災害」だ。巨大な台風や大雨が何度も日本列島を襲い、甚大な被害を与えている。海水温度の上昇で台風の発生場所が変わり、2020年以降も同程度かそれ以上の災害が起きると考え対策すべきだろう。国は「国土強靱化」としてハード整備を中心にさまざまな対策を講じている。しかし自然の猛威が対策を上回っている。命や暮らし、産業を守るために抜本的な意識改革が必要だ。(取材=編集委員・板崎英士)

【各地で頻発】

「近年の災害は激甚化では済まない。凶暴化だ」と国土交通省の山田邦博技監は19年12月13日、防災・減災・国土強靱化をテーマとした「国土交通技術行政の基本政策懇談会」でこう切り出した。近年は毎年のように全国各地で自然災害が頻発している。15年9月に茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊した「平成27年関東・東北豪雨」をはじめ、16年の「熊本地震」や18年の「北海道胆振東部地震」など大きな地震も起きた。この2年、大型台風や大雨で各地に被害が出ている。

【暴風と大雨】

特に19年9月に上陸した台風15号では、風による甚大な被害が起きた。千葉県では毎秒50メートル以上の観測史上最大の暴風が吹き荒れ、2本の送電用鉄塔と約2000本の電柱が倒れた。7都県で93万戸以上の停電が発生、6万6800戸の住宅が被害を受けた。送電用鉄塔は風速40メートルで倒壊しないよう設計されており、すべての鉄塔の点検と設計基準の見直しという課題を突きつけた。

一方、10月12日に上陸した台風19号は、大雨による被害が目立った。静岡県から東北までの125カ所の観測地で48時間降水量が観測史上1位となり、国管理河川の千曲川(長野市)、阿武隈川(福島県須賀川市など)など4河川、都道府県管理河川を含めると140カ所が決壊、3万5000ヘクタールが浸水した。鉄橋崩落や新幹線車両基地の浸水、都市部のタワーマンションの浸水など、雨によるさまざまな被害をもたらしたのが特徴だ。

太平洋の海水温が上昇しているため台風の発生場所が、かつてのフィリピン沖から東側に移りつつある。これに伴い、日本列島への上陸場所も九州や四国だけでなく、東海以北を直撃することが増えている。勢力が落ちないまま関東直撃も増えており、防災の経験則を見直す必要がある。1カ月の間に来た二つの台風は被害の原因が暴風と大雨で異なる。今後は日本各地で、両方に対する最大レベルの備えが必要となる。

【自助・共助も】

19年9月11日、まさに台風15号が上陸しようかという日、内閣改造が行われ国土強靱化政策の要となる国土交通相に赤羽一嘉氏が就任した。直後のインタビューで「強靱化する自然災害に、もはや公助(国の施策)だけでは何もできない。命を守るために個人が災害時にどう行動するかの自助と、日頃から地域のお年寄りや障害者など災害弱者を気に掛ける公助が重要だ」と発言、国民の意識改革を訴えた。

ダムや堤防、遊水池などの災害インフラを含め、多くの道路や橋梁が建設後40―50年を経ており老朽化が進んでいる。国は重要インフラについての緊急点検を開始し、災害時に国民に適切な避難を促すリアルタイムの情報発信や治体のハザードマップ充実などを進めてきた。ただ、被災したインフラを元に戻すことを原則としてきたこれまでの考え方では、それ以上の災害が起きた際に対応できない。ハード面ではインフラのあり方、ソフト面では迅速な情報提供の再構築がカギとなる。

【サプライチェーン維持重点】

国は18年12月、相次ぐ甚大災害に対し「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」を閣議決定し、総事業費7兆円で160項目の対策を進めている。さらに19年12月には27兆円規模の総合経済対策を決め、防災・減災、国土強靱化に7兆円を充てた。20年度予算の公共工事は前年度並みの6兆669億円だが、インフラの老朽化対策や内水氾濫対策など防災・減災目的の案件は従来の交付金から個別補助に切り替え、確実に執行されるようにした。予備費、補正予算、臨時・特別の措置とあわせた「15カ月予算」で事業の継続性を維持する。

【製造業の課題】

甚大な自然災害が起きた時に、いかに経済活動を維持するか、いち早く復旧させるかは重要な課題だ。このポイントはサプライチェーンの維持にある。最終製品を製造するメーカーはサプライヤーから部品が安定的に供給され、電力や水などのエネルギーが確保でき、物流が機能して初めてモノづくりが可能になり、市場に製品を出せる。どこか一つが途切れるだけでも生産がストップすることは、東日本大震災で多くの企業が経験した。

サプライチェーンが途切れる怖さを、まざまざと見せつけた例がある。1997年2月、トヨタ自動車の生産が5日間停止した。原因はグループ企業の工場が火災になり、小さな特殊バルブの生産が止まったことだ。この時は系列の壁を越えて同業者が支援したことで、5日の被害で済んだ。ただ、自然災害は地域全体が被災するため他社の支援は期待できない。中小サプライヤーの中には、緊急時の事業継続計画(BCP)が策定できていないところもある。自社のBCPという自助に加え、サプライチェーンの中のボトルネックを調査し対策する公助も必要だ。

名古屋大学の福和伸夫減災連携研究センター長は、2014年に西三河防災減災連携研究会を発足し、トヨタグループと9市1町の災害時対応を研究している。「嘘をつかない、口外しない、議事録を残さないという“ホンネの会”を開くようになって初めて、ボトルネックが見えてきた」という。それだけ公助のハードルは高いのだ。緊急時の部品供給計画はつくっても、工業用水が確実に届くよう対策している企業は少ないだろう。災害時の官民連携は、形ではなく質が問われる。

■インタビュー/国土交通省水管理・国土保全局長の五道仁実氏 「防災意識社会」構築へ

Q 近年の激甚災害で見えた課題は。

A 気候変動を踏まえた対策を進める必要がある。これまでの治水は過去の傾向から判断してきた。気温が2度上昇すると雨が10%増えるデータがあり将来を見据えた対策に変えている。市街地に居住誘導するコンパクトシティの街づくりと整合させることが重要だ。

Q ハードとソフトの考え方は。

A 上流はダムや遊水池、下流は堤防強化という流域全体のハード対策が基本だ。台風19号では利根川の八ッ場ダムで1億4500万トンの水をため、下流の水位を1メートルさげられた。ただ、どんな施設でも1000年に1度の災害が来て計画値を超えれば決壊する。日頃からハザードマップを活用し、いつ、どこに避難するか個人のタイムラインをつくってほしい。「防災意識社会」の構築だ。

国土交通省水管理・国土保全局長の五道仁実氏

Q 緊急対策に加え、15カ月予算で防災を進めています。

A 補正予算で災害復旧費含め1兆2000億円が計上された。これまで十分できていなかった河道の掘削や樹木の伐採、堤防強化などを加速する。

日刊工業新聞2020年1月3日

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