TDK社長に聞く、5G向け電子部品と電池の投資バランスどうしますか?
電子部品業界を取り巻く外部環境が目まぐるしく変化している。2020年は第5世代通信(5G)市場向けに期待が集まる上、中長期的には自動車、ウエアラブル、エネルギーなど各市場向けでも成長が期待できる。TDKの石黒成直社長に進化の方向性と自社の事業戦略を聞く。
―外部環境が大きく変わっています。21年3月期までの3カ年の中期経営計画で目指す経営目標は達成できるのでしょうか。
「現時点で目標値は変えていない。ただ、2年目の景気後退による影響はかなりきつい。売上高1兆6500億円の目標は厳しいという感触だ。だが、営業利益率10%以上、株主資本利益率(ROE)14%以上の目標は企業としての責任もあり、死守したい」
―21年3月期の設備投資額の見通しは。
「20年3月期とほぼ横ばいの2000億円近くを見込んでいる。このうち40%超を二次電池に、5G向けを中心とした受動部品には最低でも25%は投じたい」
―二次電池の事業が好調です。
「当社のパウチ型のリチウムポリマー電池はスマートフォン向けで高いシェアがある。ただ、スマホはここからそれほど台数が伸びるわけではなく、基本的には生産能力増の投資は必要ない。完全ワイヤレスイヤホンなどで使われる小型のミニセル需要を確実に取り込んでいく」
―受動部品分野では5G需要にどう対応していきますか。
「5Gを中心とする新たな情報通信技術(ICT)プラットフォームが今年から間違いなく始まる。積層セラミックコンデンサー(MLCC)は20年3月期比で最低10%の生産能力投資を行う。基地局向けでも使われるような電子部品には精力的に先行投資する」
―デジタル変革(DX)とエネルギー変革(EX)の潮流にどう乗りますか。
「M&A(合併・買収)を通じて、センサービジネスの拡大を着実に遂行してきた。センサーはアナログ界とデジタル界を結ぶトランスデューサー(変換器)だ。センサーソリューションでDXに貢献する。EXについては、アクチュエーターなどを効率よく動かすためのエネルギー供給源として、電池や電源を提供することで貢献していきたい。これらセンシングと電源を提供することでアルゴリズムと、自動車、ICT、産業機器・エネルギーの重点3分野などの企業の製品をつなぐことが、DXとEXにおけるTDKの役割だ」
【記者の目】
「最先端技術が集積するスマホで負けたら自動車で勝てるわけがない」と石黒社長。スマホ向けではトンネル磁気抵抗素子(TMR)センサーや微小電気機械システム(MEMS)マイクロホン向けなどが好調だ。車市場が低迷する今、技術をさらに磨き、成長が期待される車市場向けに移植できるかが中期的なカギとなる。
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