空飛ぶクルマはまずどこから導入される?

おすすめ本の紹介「空飛ぶクルマのしくみ 技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命」

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これまではフィクションの世界でのみ語られてきた空飛ぶクルマが、技術開発の躍進により、まもなく実用化を迎えようとしている。本書では、機体のメカニズムや要素技術、交通システムやインフラ開発の要点を一冊に集約し、実現までの道のりを解説する。

空飛ぶクルマが必要とされる8 テーマ(図1)について、その背景と理由、実現できたときのイメージ像と社会的メリット、および、そのとき検討が必要とされる課題を説明しました。その8 テーマについて、今度は別のいくつかの観点から検討します。本節で用いた観点は(1)ビジネス環境、(2)運航管理システム、(3)ビジネスにおける経済性、(4)騒音やダウンウォッシュ対策の必要性、(5)社会受容性です。
 空飛ぶクルマ研究ラボでは、事業計画のロードマップを作成するとき、用途ごとに分類し、それぞれのスケジュールで計画を立てることを提案します。

(1)ビジネス環境とは、世界における市場参入の障壁の高低を意味します。空飛ぶタクシーやビジネス用途の地方交通は世界中で共通性があります。一方、災害救助や救命救急医療で空飛ぶクルマを利活用する場合、国ごとの特殊性を加味しなければならないでしょう。例えば、日本やドイツは基本的に医師を現場に派遣するため、機体は2 人乗りから始めることができます。しかし、アメリカ、フィリピン、タイでは患者を病院へ搬送することが基本であるため、機体の乗員数は多くなります。災害救助でも高い山がある国と平野だけの国では、機体に求められる仕様が異なります。

(2)運航管理システムについては「新たなモビリティには新たなシステムが必 要となること」を説明しました。

(3)ビジネスにおける経済性とは収益性(採算が取れるかどうか)です。ロサンゼルス、ニューヨーク、デリー、ジャカルタ、マニラ、バンコクなどの交通渋滞の深刻な大都市では、空飛ぶタクシーの市場規模がかなり大きくなると予想されています。リゾート地での観光用途の場合は市場規模が大きくはありませんが、新たなモビリティとして話題性が高まり、経済的にも右肩上がりになる可能性はあります。一方、我が国では、災害救助や救命救急医療は社会ニーズによる公的事業です。

(4)騒音とダウンウォッシュ対策の必要性とは、社会受容性とつながります。特に営利事業の都市の空飛ぶタクシーでは、離着陸時の音が静かで砂埃もあまり立たないような機体や離着陸場を構築しないと、事業継続は難しいでしょう。

(5)社会受容性とは新しい技術や商品などが社会の理解や賛同を得られるかどうかという観点です。社会受容性が高いテーマは災害救助や救命救急医療、地域医療を支えるための僻地への医師派遣です。例えば、災害時に道路網が寸断された場合、被災地の状況把握のため担当者を高速派遣するなどの活用が考えられます。一方、都市の空飛ぶタクシーやビジネス用途の地方交通のような事業性が高いテーマは社会受容性を得るまでに時間がかかると予想されます。

これらの観点から検討した結果(図2)、高い社会的ニーズがあるのは災害救助、救命救急医療、地域医師派遣、過疎地交通です。早期の実現可能性が見込まれるのは、離島交通、遊覧観光・レジャービジネスでしょう。離島交通は、空飛ぶクルマの底部に浮輪をつけて水面から数m の高さを飛べば、海へ墜落した場合でも安全性を確保できるため、早期実現を見込めます。ただし、漁業組合に配慮することが必要です。海上やレジャー地であれば社会受容性で懸念される騒音もあまり問題にならない可能性があります。こうして安全確保や騒音低減の技術を高めながら、人口密度の低い地域から高い地域へと実用化を慎重に進めるアプローチが望ましいでしょう。産業振興の点では都市の空飛ぶタクシーやビジネス用途の地方交通は有効でしょう。
(『空飛ぶクルマのしくみ 技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命』本文抜粋)

<書籍紹介>
書名:空飛ぶクルマのしくみ 技術×システムのサービスデザインが導く移動革命
著者名:監修・中野冠、著・空飛ぶクルマ研究ラボ
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:2200円

<監修者>
中野 冠(なかの・まさる)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

 <執筆者>
中村 翼(なかむら・つばさ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教、有志団体CARTIVATOR 共同代表。
中本亜紀(なかもと・あき)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教
福原麻希(ふくはら・まき)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、ジャーナリスト
三原裕介(みはら・ゆうすけ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究奨励助教

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1章 空飛ぶクルマのコンセプト
「空飛ぶクルマ」とは何か?/空飛ぶクルマの歴史/空飛ぶクルマのシステムデザイン

第2章 輸送サービス
災害救助/過疎地の交通手段/救命救急医療の新たな交通手段

第3章 機体と要素技術
マルチコプタータイプの構造/固定翼付きタイプの構造/電動化が進む背景

第4章 インフラ構築
空飛ぶクルマの交通システム/通信と飛行方式/保険への加入

第5章 空飛ぶクルマ実現のための課題
運航の信頼性(就航率)/空飛ぶクルマとドローンの共通点と違い/システムデザインの観点から見た実現可能性

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