ニュースイッチ

もうフィクションじゃない?空飛ぶクルマ実現の道のり

おすすめ本の紹介「空飛ぶクルマのしくみ 技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命」
これまではフィクションの世界でのみ語られてきた空飛ぶクルマが、技術開発の躍進により、まもなく実用化を迎えようとしている。本書では、機体のメカニズムや要素技術、交通システムやインフラ開発の要点を一冊に集約し、実現までの道のりを解説する。

図 は、「空飛ぶクルマ」という言葉で表される4 つの定義を示しています。「空陸両用車」は機能の視点、「電動垂直離着陸機(eVTOL(イーブイトール):electric vertical takeoff and landing)aircraft」は機体の動力と飛行機能の視点、「都市型航空交通」は用途の視点、「空を利用したDoor-to-Door 移動サービス」はサービスの視点です。これらを順に説明しましょう。


(1)空陸両用車

「空飛ぶクルマ」といえば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのSF 映画に登場するような「空陸両用車」、すなわち、空を飛べて地上の道路も走ることができる車を思い浮かべる人が多いに違いありません。運転している人なら、道路の渋滞時に「空を飛べたらいいのになあ」と思ったことが一度はあるでしょう。しかし、長年研究されてきたにもかかわらず、それはまだ実用化されていません。

地上を走るためには、他の車やガードレールに衝突した場合に乗員を守れるほどの強固な車体が必要です。こうすると重くなり、空中に浮きあがるのが容易でなくなります。また、翼やプロペラを大きくしないと安定して複数人を運ぶことはできませんが、その場合、我が国の狭い道路では対向車線にはみ出してしまいます。さらに、道路を走るときは翼を折りたたむ必要がありますが、機構が複雑になります。機構が複雑になると重くなるだけでなく、故障が増えると予想されるため、安全性の観点で課題が多くなります。しかし、将来、空陸両用車が実用化されれば、多くの人が一度は乗りたいと思うに違いありません。狭い道路に入ることができれば、急病患者を運んだり、災害時に活躍したりすることがより期待されるでしょう。離着陸方法としては、道路を滑走しながら飛び立つ方法、あるいは垂直に離着陸する方法がともに考えられてきました。


(2)電動垂直離着陸機

ドローンの普及によって、電動で滑走路を使わず、空と離着陸場を垂直に昇降するeVTOL が注目を集めています。空飛ぶクルマというカタカナの名称は、人が移動に利用する大衆的な乗り物というイメージを出すためで、必ずしも自動車の機能を持っていなくてもかまいません。従って、この定義では地上を走れなくともよいことになります。なお、ヘリコプターは通常電動ではないのでeVTOLには含まれません。

ドローンはキットを買ってきて自分でも組み立てられるように、開発の難易度が低いため、モーターによる動力と回転翼による浮遊・推進機構を持つのであれば、航空機メーカーでなくても参入できる利点があります。国内外の多くのベンチャー企業が2019 年現在、開発を行っています。この観点から、eVTOL は空飛ぶクルマの代名詞になっているようです。

また、ホビー用のドローンは、初心者でも少しの訓練で飛ばすことができます。この操縦の簡単さからeVTOL は自動操縦、あるいは自動車免許程度の簡便さで免許が取得できることが期待されています。現在航空業界ではパイロットが不足しており、運航コストの低減のために自動操縦が期待されているわけです。パイロットがいないのであれば、空飛ぶクルマは若い男性が彼女に空中で愛を告白することにも使えそうです。


(3)都市型航空交通

アメリカでは、ロサンゼルスなどで渋滞が深刻になっているため、都市の新しい交通手段が求められています。空飛ぶクルマはUAM(Urban Air Mobility)、すなわち「都市型航空交通」として語られています。アメリカで開催される国際会議、例えばアメリカ航空宇宙学会(American Institute of Aeronautics and Astronautics:AIAA)において、空飛ぶクルマの論文はUAM のセッションで話されることが多いのです。垂直離着陸は重要ですが、機体の主動力はフル電動(モーターだけで、ハイブリッドでない)や回転翼だけにこだわりません。

なぜなら回転翼だけでは、水平飛行時の効率が悪くなるためです。2019 年現在、バッテリーの性能がまだ低いので、航続距離が短いのです。従って、アメリカなど長距離飛行を必要とする国ではハイブリッド(モーターとエンジン)や、回転翼だけでなく固定翼を有したものも開発されています。安全を考慮すると、都市ではトラブルがあった際に人家のないところまで移動する必要があり、滑空できる固定翼を持つことが望ましいという面もあるからです。なお、大都市の深刻な渋滞はアメリカだけの問題ではなく、インドのデリー、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコクなどアジアでも見られます。


(4)空を利用したDoor-to-Door 移動サービス

空飛ぶクルマを一つの機体ではなく、空の利用を含む「Door-to-door 移動サービス」として捉えることもできます。近年、スマートフォンでタクシーを呼ぶオンデマンドサービスが普及しています。世界では「ライドシェア」という複数の乗客が乗り合わせるサービスもあります。我々の空飛ぶクルマ研究ラボでも、2014 年に修士学生がオンデマンド航空について研究しました。

昨今、鉄道・バス・バイクシェア・スクーターシェアなどと地上のタクシーを組み合わせた複合的なサービスである「MaaS (Mobility as a Service)」に注目が集まっています。空飛ぶクルマを大衆化した空の乗り物と考えれば、この定義はまさにふさわしいと言えるでしょう。この定義によれば、極端に言えば、機体は従来のヘリコプターでもいいことになります。

実際Airbus(エアバス)やBell Helicopter Textron(ベル・ヘリコプター)は、まず従来のヘリコプターを使って空飛ぶクルマの事業のノウハウを得ようとしています。さらに一つの移動ツールの例として、Airbus 社とAudi(アウディ)社とItaldesign Giugiaro(イタルデザイン・ジウジアーロ)社は共同で、ドローンが自動車を吊り上げて運ぶシステム(ドローンと車という2 つの要素が合体)を開発しています。空中で軽量化するために、自動車が吊り上げられるときにはタイヤを含む底のフレームが外れます。この乗り物なら乗り降りすることなく移動すべてをカバーすることが可能ですから、体の不自由な人に便利です。ドローンと車の接合部分の強度が安全上懸念されるため実用化には困難が予想されますが、このような斬新なアイデアの提案がこれからも続くことが期待されています。

このように、空飛ぶクルマには4 つの定義が見られます。しかも、この4 つのどれか一つにだけ分類されるのではなく、複数のタイプにまたがるものもあります。例えば、空陸両用で、かつeVTOL のタイプの機体を開発するメーカーもあります。それを都市の交通に使ったり、MaaS のサービスとして利用したりしていくことでしょう。
(『空飛ぶクルマのしくみ 技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命』本文抜粋)


<書籍紹介>
書名:空飛ぶクルマのしくみ 技術×サービスのシステムデザインが導く移動革命
著者名:監修・中野冠、著・空飛ぶクルマ研究ラボ
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:2200円

<監修者>
中野 冠(なかの・まさる)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

 <執筆者>
中村 翼(なかむら・つばさ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教、有志団体CARTIVATOR 共同代表。
中本亜紀(なかもと・あき)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教
福原麻希(ふくはら・まき)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、ジャーナリスト
三原裕介(みはら・ゆうすけ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究奨励助教

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1章 空飛ぶクルマのコンセプト
「空飛ぶクルマ」とは何か?/空飛ぶクルマの歴史/空飛ぶクルマのシステムデザイン

第2章 輸送サービス
災害救助/過疎地の交通手段/救命救急医療の新たな交通手段

第3章 機体と要素技術
マルチコプタータイプの構造/固定翼付きタイプの構造/電動化が進む背景

第4章 インフラ構築
空飛ぶクルマの交通システム/通信と飛行方式/保険への加入

第5章 空飛ぶクルマ実現のための課題
運航の信頼性(就航率)/空飛ぶクルマとドローンの共通点と違い/システムデザインの観点から見た実現可能性

編集部のおすすめ