トヨタとホンダ、「系列」への向き合い方は対照的になってきた!?
トヨタ自動車グループのサプライヤー間の再編は、2019年も加速した。強みを持つ企業に重複事業を集約し、競争力を高める基本軸は続く見通し。一方でその方向性は単なる事業集約から、統合や連携によるシステム提案力の強化へと軸足を移している。
5月、デンソーがトヨタ保有の愛三工業の株式を取得し、出資比率を37・5%に引き上げると発表した。今秋の正式合意を目指していたが、事業移管する製品など「一つひとつ議論し詰めているところ」(デンソーの山中康司副社長)という。7月、ジェイテクトがディファレンシャルギアを手がける豊精密工業(愛知県瀬戸市)の完全子会社化を発表。20年1月1日付でトヨタから全株式を100億円で取得する。駆動部品の事業基盤強化を狙う。
10月にはアイシン精機が、長年の懸案事項だった変速機子会社アイシン・エィ・ダブリュの経営統合を決めた。統合会社は売り上げベースでアイシングループの85%を占める規模で、駆動系からボディー、シートまで車のシステムをトータルで企画できるようになる。これまではトヨタが手がけていた部品を各グループ企業に集約するケースが多かったが、今年に入り、再編の中心がグループ間に移ってきている。あるグループ首脳によれば「部品単位で統廃合してきたが、今はシステムという、より上位視点での再編に切り替わっている」という。
その象徴的な事例が、トヨタ紡織が今年の東京モーターショーで発表した次世代車室空間「MX191」だ。シート事業はグループ内での主な再編が完了しており、今は「トヨタ紡織がインテリアの総合メーカーとしてグループを引っ張る役割を期待されている」(トヨタ系中堅部品メーカー首脳)。トヨタグループ首脳は「システムでなければ競争力がない時代に、部品単体では生き残れない」と指摘する。今後は単独で残っているトヨタ系部品メーカーの動向が焦点になりそうだ。
「CASE対応」再編加速
10月、日立オートモティブシステムズ(AMS)とホンダ系サプライヤーのケーヒン、ショーワ、日信工業の4社が経営統合すると発表した。部品メーカーは他社との協業を積極化しているほか、他のホンダ系もホンダ以外の受注拡大を進めている。第2の大型M&A(合併・買収)に発展する可能性がある。
「統合により競争力が上がる」。4社の経営統合について、ケーヒンの相田圭一社長はこう力を込める。同社の売上高の8割以上がホンダとの取引。「他販拡大」のために、開発力やコスト競争力を磨いてきた。そうした取り組みが奏功し、今年初めてトヨタ自動車向けエンジン部品を受注した。統合により、日立AMSの顧客網を活用して他販拡大を加速する。ホンダとしてもホンダ依存からの脱却を促すことで、競争力の高いサプライヤーになることを期待する。
また、この統合は「日立側が積極的に進めた」(関係者)とされる。日立AMSはこれまでも「走る・止まる・曲がるといった基本要素の分野を強化したい」(同社幹部)という考えがあった。「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」分野で開発費が増大する完成車メーカーが、基本要素の分野をサプライヤーに委ね始めている。規模を拡大し、同分野で高いコスト競争力と幅広い製品群を一体的に納めることがサプライヤーに求められている。
4社が経営統合に動いたことで、部品業界ではホンダ系を中心に再編機運が高まっている。同じくホンダ系の中堅メーカーは「CASE対応に向けて当社も保有していない技術・製品では他社との協業を視野に入れる」と展望を語る。ほかの部品メーカーと比べて、協業に消極的だったホンダ系の風向きが変わったことで、「提携先として魅力的だ」(業界関係者)という声が漏れ始めてきた。合従連衡が起きる部品業界の中で、ホンダ系が台風の目になりそうだ。
(取材=名古屋・政年佐貴恵、渡辺光太)