米中摩擦の“避難先”、タイの経済成長が日本に微笑みかける

巨大経済圏「ASEAN」開拓の足がかりにも

東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国のタイは、今後5―10年で大きな成長が見込める地域だ。日本企業はその成長を取り込もうと現地で事業展開を積極化している。タイ国内市場だけではなく、巨大経済圏のASEAN開拓の足がかりになることも魅力の一つだ。それもあり、米中貿易摩擦による関税の影響を回避しようと多くの企業が中国から周辺国に生産シフトを検討しているが、タイを選ぶケースが増えている。

「タイランド4・0」

ASEANの中でも成長著しいタイは、政府主導で経済社会全体のデジタル化を進める「タイランド4・0」に取り組む。NTTデータタイの大野有生最高執行責任者(COO)は「タイのデジタル化は日本より進んでいる」と明かす。

そのため同社はデジタルマーケティングやデータサイエンティストなど高度IT人材の育成を加速する。2019年でゼロから新たに20人の高度人材を育成した。20年には50人、21年には100人を育成する。

背景には、同社が主要なターゲットとしている現地の金融・製造業のデジタル化は「あらかた済んでいる。受託型のIT企業は必要とされない」(大野COO)ことがある。

例えばタイ現地企業のセメント工場などであっても既にセンサー類は設置済みだ。今後必要になるのは最先端のデータ分析やデータを活用した顧客や市場への新サービス創造であり、これに寄与する企業を目指す。

同社は、NTTデータが中国や日本などグローバルで進める最新のデジタルマーケティングやビジネス創出案件に担当者を参画させ、ノウハウをタイに持ち帰らせる。「カエル跳びで一気にデジタル化を狙う企業に貢献できなければ我々は生き残っていけない」と、大野COOは成長市場だからこその危機感を示す。

国家の枠を超えたASEAN経済圏は、欧州や北米、中国などに肩を並べる約6億5000万人の巨大市場になる。インドの離脱が懸念されるが、日本、中国、韓国とASEAN加盟国など計16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も交渉が進む。RCEPが実現すれば、世界の人口の約半数、貿易額と国内総生産(GDP)で約3割を占めるさらに巨大な経済圏が誕生する。

自動車も続々

国内商用車メーカーにとってもタイは重要な拠点だ。いすゞ自動車はタイでは、ピックアップトラックのイメージが強い。10月に全面改良したピックアップトラック「D―MAX」を投入した。現地でのレセプションパーティーには関係者ら3000人以上が訪れるほどの人気が根付いている。

いすゞのピックアップトラックは1974年にタイで現地生産を始めた。累計販売台数は400万台を超える。タイでの販売シェアもトヨタ自動車と首位を争い、ピックアップトラックの販売台数はいすゞの世界販売台数の約4分の1を占める。今回の新型投入を機に、いすゞのタイ工場では溶接工程の自動化なども強化した。

日野自動車もタイを主要市場として挙げる。アジア地域を統括する開発拠点として「スワンナプームものづくりセンター」を新設し、21年に稼働する予定だ。タイだけでなく、アジアの商用車ニーズに迅速に対応できる体制を整える。

経済成長の先を見据える企業もある。豊田通商は、タイで使用済み自動車(ELV)のリサイクル実証事業を今夏から本格的に始めた。

現地では10年以降に自動車の販売台数が急増する一方、ELVを適正に処理するインフラが整備されていないという課題がある。25年頃にはELVの増加が見込まることから、将来に向け適正なリサイクル処理するインフラの構築が求められていることに前もって対応する。

豊田通商のグループで鉄スクラップ加工を手がけるグリーンメタルズタイランドに解体ラインを整備した。そこで実際に環境に配慮したリサイクルプロセスの確立など技術導入を図っていく。21年2月まで実施し、期間中に合計で100―350台程度を実際に解体して検証する方針だ。

いすゞのピックアップトラックを生産するゲートウェイ工場

生産移管が増える

米中貿易摩擦の影響を回避する動きも顕著だ。京セラは、中国で生産し米国向けに輸出している車載カメラモジュールやディスプレーの一部の生産をタイに移管した。

シークスも中国で生産してきた米国向けの車載関連の電子機器製造受託サービス(EMS)について、10月中にタイなどへの生産移管を完了した。NOKは中国で生産していた車のトーショナルダンパーなどの防振ゴム製品をタイの生産拠点にシフトした。シャープは中国で生産する米国向け複合機のうち、12月出荷分からタイに生産を移す。

加賀電子はASEAN地域でのEMS事業の拡大に向け、約5億円を投じてタイ生産子会社の第2工場を建設中だ。12月の稼働後は複合機やプリンター用の電装基板を生産する。米中貿易摩擦の影響でタイなどASEAN地域への生産移管を進める企業の取り込みも視野に入れる。

サンワテクノスは、企業の生産移管や調達・物流などを支援する「グローバルSCMソリューション事業」を手がける。4月に同事業の専門部署を立ち上げたのは、中国からの対米輸出製品を生産移管する日系企業が増えるとの予想もあったからだ。

田中裕之社長はこれまでに「大手樹脂成形メーカーの米国向け輸出をタイに移管する仕事を受注した」と明かす。大手プリンターメーカーともタイへの生産移管に関して商談中という。

日刊工業新聞2019年11月7日

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